災害後の精神不調 孤立防ぐ取り組み急務(2024年3月29日『秋田魁新報』-「社説」)

 昨年7月の記録的大雨で被災したり生活への影響が出たりした人の約3割に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の疑いがあることが、秋田大などの調査で明らかになった。被災した家の再建を諦め、住み慣れた地から転居した被災者も少なくない。孤立感を深めないよう社会全体で寄り添い、心のケアに取り組む必要がある。

 調査は今年1月、県内の800人を対象にウェブ上で実施。回答者のうち住家被害を受けた人の31%、自宅周辺が浸水した人の30%、仕事や生活に影響を受けた人の31%に「PTSDのリスクあり」との判定が出た。被害がなかった人の25%もリスクありと判定されたという。

 発災から半年が経過しても、多くの人が精神的な不調に苦しんでいる状況は深刻だ。普段目にする光景とは様変わりした惨状にショックを受け、将来への不安や大きなストレスを抱えながら日々の生活を送っていることがうかがえる。

 昨年8月に米ハワイ州マウイ島で起きた山火事では、発生から時間がたつにつれ、精神的な不調を訴える被災者が増えているという。自分の気持ちと向き合う時間ができて不安感を認識するようになったためとみられている。本県で起きた大雨の被災者にも同様の傾向が現れないか心配だ。心の傷が少しでも軽減されるよう、周囲の理解や長期的な支援が求められる。

 筑波大の災害・地域精神医学講座は能登半島地震を受け、災害直後の心のケアとして、親しい人とできるだけコミュニケーションを取ることなどを勧める文書をホームページで公開。不安や気持ちが沈むのは災害時の自然な反応だとして、他の人と気持ちを共有し、ねぎらい合う「つながり」が重要だと呼びかける。

 文書では、被災直後は不安や不眠、興奮が起きやすいため、深呼吸や音楽でリラックスすると良いと解説。家族の安否確認や家の片付け、衣食住の確保など、やるべきことが一気に発生するが、「優先順位を付け、先延ばしできることは延ばしましょう」と助言する。また、飲酒は睡眠や心の状態を悪化させる恐れがあるため避けるべきだとし、睡眠や食事などの生活リズムを維持するよう促す。

 このような見解を、今後災害が発生した際のメンタルヘルス対策に生かしたい。

 国内では気候変動に伴い、1時間降水量が80ミリを超す大雨の発生回数はこの45年間で1・7倍に増加しているという。本県は2017年にも記録的大雨に見舞われており、こうした水害は今後ますます増えると指摘する専門家もいる。

 大規模災害が相次ぐ状況を鑑みれば、PTSDなどの精神疾患を予防する公衆衛生の観点はより一層重要になる。各自治体や地域でカウンセリングや傾聴などに対応できる人材を拡充する取り組みが求められる。