アライグマ(2024年3月29日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 1年半ほど前、兵庫県の地元紙・神戸新聞の記事を読んでいて驚いた。姫路市の東隣の加西市で、収穫期の夏のブドウ畑にアライグマの親子が毎晩のように現れるという▼

2メートル近い木を登り、熟れた房を探しては器用な手先で袋を破り、実を食べていく。甘い物が大好きでイチゴやスイートコーンも狙われるそうだ

兵庫県によると、1998年ごろから神戸市を中心に確認され始め、生息域が拡大している。農業被害額は2022年度に5200万円。獣類ではイノシシ、シカに次ぐ多さである。県は防除指針を定め、対策に乗り出している

岡山県内でも駆除に努める自治体がある。美作市は21年度から有害鳥獣捕獲の奨励金対象に加えた。捕獲は22年度に1匹だったが、23年度は2月末時点で6匹に上る。市は「農業被害の報告は入っていないが、今後の発生が懸念される」と警戒する

▼そもそも輸入ペットが逃げ出すなどして野生化したとされる。民家の天井裏にすみ着

くこともあり、生息域が広がると厄介だ。むろんフルーツ王国・岡山を代表するマスカットやピオーネへの影響は計り知れない

▼兵庫の指針は寄せ付けない策として、落ちた果実を畑に放置しないことなどを挙げる。岡山の特産品を脅かす困り者が増えつつある。愛らしさに惑わされ、餌をやるのは論外だ。肝に銘じたい。