AIの権利侵害 知的財産守る法整備が必要だ(2024年3月29日『読売新聞』-「社説」)

 人が労力をかけて作った作品やデザインを、生成AI(人工知能)に無断で学習させて収益を得ることを許したら、誰もが創作意欲を失い、文化は荒廃するばかりだ。

 政府は、AIから知的財産を守る法的措置を講じるべきだ。

 内閣府有識者会議「AI時代の知的財産権検討会」(座長・渡部俊也東大副学長)が中間報告の骨子案を公表した。近くとりまとめる中間報告を、政府は知的財産推進計画に反映させる方針だ。

 骨子案はAIによる知的財産の学習について、商品の名称やデザインの保護を定めた商標法や意匠法の保護対象に「該当しない」と明記し、制限を設けなかった。

 知的財産を学んでいる段階では開発企業に利益が発生しないことが根拠のようだが、AIの学習とは、作品をデータ化して使用できるようにすることであり、その内容は商品に直結している。

 学習段階での知的財産の保護は不要だ、という有識者会議の考え方は一面的過ぎる。

 例えば自動車のデザインなどを保護する意匠法は、一定期間、模倣を禁じることで、創作者の経済的利益を確保する狙いがある。

 そのデザインを他者がまねしたら「1対1」での権利侵害になる。だが、AIがそのデザインを学習した場合、AIの利用者の多くが気づかぬうちに模倣したデザインを活用する恐れがあり、権利侵害ははるかに深刻だ。

 政府は2018年に著作権法を改正し、美術や記事といった著作物についても、AIに自由に学習させることを認めてしまった。

 日本新聞協会は昨年、「費用と労力をかけた報道コンテンツを、AIの開発者やサービス提供者がただ乗りしている」という声明を発表した。これに対し骨子案は、人が創作にかけた労力は「著作権法保護の対象外」と指摘した。

 だが、人の労力なしに著作物は成り立たない。実際、知的財産高裁は05年、読売新聞の記事の見出しを無断で配信した会社に賠償を命じた。判決は見出しを「多大の労力、費用をかけたもので、法的保護に値する」と評価した。

 そもそも内閣府有識者会議には、政策の総合調整という役割がある。AIによる学習は現行法で保護対象にならないというなら、AIから知的財産を守る新たな法制度を提案するのが筋だろう。

 AIの法規制を進めている欧米では、日本を「機械学習パラダイス」と 揶揄やゆ しているという。政府は恥ずかしくないのか。