AIの規制 人権を重視した対策こそ(2024年3月23日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 規制を重視する世界の潮流に沿った当然の方向転換である。

 急速に普及する人工知能(AI)を巡る規制策だ。政府が開発者を対象とする法規制の検討に入ることが分かった。

 生成AIには、利用者の指示で文章や画像をつくる利便性がある半面、偽情報の拡散や著作権侵害などの問題がある。

 政府が検討する法規制は、偽情報対策などに不備がある場合に課徴金や刑罰を科すことを視野に入れる。6月ころにまとめる経済財政運営の指針「骨太方針」への明記を目指すという。

 日本はこれまで、開発と活用を重視する立場で企業の自主性を尊重する方針だった。近く公表する予定のガイドライン(指針)も、人権配慮と偽情報対策を求める10原則を柱にするものの、法的な拘束力はなかった。

 世界的には、規制導入の動きが広がっている。

 欧州連合(EU)は強制力のある規制を重視しており、欧州議会は13日の本会議で、世界初の包括的なAI規制法を可決した。生成AIで作成した画像だと明示することなどを義務付け、違反時には巨額の制裁金を科す内容だ。

 米国もバイデン大統領が昨年10月、高度なAI技術を開発する企業に対し、安全試験の結果を政府に提供するよう義務付ける大統領令に署名した。

 欧米にはAIが人権に与える影響への危機感が強い。AIで作成された精巧な偽動画や偽情報が選挙などで大量に流されれば、結果を左右して民主主義を揺るがしかねないからだ。国連総会も21日、AIの開発や利用を巡り、安全性や信頼性を重視するよう求める決議案を採択している。

 日本の指針では、こうした疑念に対応できないとの指摘は従来からあった。そのため、自民党のプロジェクトチームが2月、規制を盛り込んだ素案を公表していた。

 政府は有識者らでつくるAI戦略会議で議論を進める。開発者に自社や外部機関による安全性検証を義務付け、国などに順守状況を報告するよう求める方向だ。

 ただ、規制が過剰になると開発企業を萎縮させる。中国では共産党や政府の考えに反する内容の文章や画像、動画などをAIが生成しないようにする規制も導入している。方向性を誤ると言論統制にもつながりかねない。

 人権や言論を守りながら、AIの利便性をどう高めていくのか。十分に検証して、規制案をまとめていく必要がある。