中部太平洋のビキニ環礁で行われた米国の水爆実験で、静岡県焼津市の遠洋マグロ漁船「第五福竜丸」が被ばくしてから今月で、70年となった。
爆発の力は広島に投下された原爆の千倍以上で、大量の放射性物質を放出した。第五福竜丸の乗組員23人がはき気ややけどの症状を訴え、急性放射線症となった。無線長の男性がその半年後に死亡したのをはじめ、ほかの乗組員もがんなどで亡くなっている。ビキニ環礁周辺には当時、日本の漁船が千隻ほどいたとみられている。
爆発を伴う核実験を禁じる包括的核実験禁止条約(CTBT)は米国や中国、ロシアなどが批准せず、発効の見通しが立っていない。北朝鮮は2017年に爆発を伴う実験、米国は21年に臨界前実験を行っている。原爆投下や核実験のもたらす凄惨(せいさん)な結果が顧みられることなく、性能強化や兵器保有に向けた実験が行われているのは胸が痛む。
ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻に絡んで、核兵器の使用を示唆する発言を繰り返している。プーチン氏のように国の指導者が核兵器を威嚇や、外交交渉を有利に進めるための材料としている現状は是認できない。
核兵器の廃絶、核実験の全面禁止を一刻も早く実現することが、国際社会の責務だ。日本は広島、長崎、ビキニ環礁の3度、核兵器による被害を受けた。核兵器被害の当事国として、日本が核廃絶に果たすべき役割は大きい。
日本政府は、国内の被害者が実現を呼びかけてきたことなどにより発効した、核兵器の使用や威嚇を禁じる核兵器禁止条約を批准していない。核兵器保有国が批准しない条約には実効性がなく、他の方法で核軍縮を訴えていくことが有効と考えているためとされる。
日本は安全保障の面で、米国との関係が極めて深い。「核の傘」に守られていることを重くみて、日本が積極的に核廃絶を呼びかけることには慎重であるべきだとの声がある。ロシアと、ウクライナを支える米国などの陣営の双方が核兵器を保持していることが、ウクライナ侵攻などの国際紛争の拡大を防いでいる側面を否定することも難しい。
核兵器被害の当事国であり、米国の核兵器を含めた軍事力に依存する日本の特殊な現状は、多くの国が理解しているところだろう。そのような状況を踏まえて、日本が核兵器の廃絶を可能にする国際社会づくりにどうかかわっていくのか。核兵器を持たない国々はそれを注視している。