紅こうじ被害に関する社説・コラム(2024年3月27日)

紅麹製品の改修 被害の把握と公表急いで(2024年3月27日『信濃毎日新聞』-「社説」)


 小林製薬大阪市)が製造販売した「紅麹(べにこうじ)コレステヘルプ」などのサプリメントを摂取した人に、腎疾患の健康被害が出ている。

 いずれにも、体にいいとして人気の米麹の一種、紅麹の成分が入っていた。

 同社には体調不良についての報告が相次いでおり、約3年にわたって摂取していたとみられる1人が2月、腎疾患で死亡していたことも明らかになった。因果関係や原因は特定されていない。

 サプリとは別に、同社が供給した紅麹原料で造ったみそ・しょうゆ、酒などの製品を自主回収する動きが全国に広がっている。

 何よりもまず、同社は原因を突き止め、健康被害との関係、摂取してはいけない商品の範囲を速やかに公表する必要がある。

 紅麹は、カビの一種の紅麹菌で米を発酵させてつくる。赤い色素が特徴で、天然の着色料としてもよく使用される。悪玉コレステロールの値を下げる効果もあるとされている。

 一方で、一部の紅麹菌株は有毒物質「シトリニン」をつくる。欧州では紅麹由来のサプリによるとみられる健康被害が報告されているとして、内閣府食品安全委員会も注意喚起してきた。

 小林製薬は、今回はシトリニンは検出されていないが、想定外のカビ由来の成分がサプリに含まれていた恐れがあるとする。

 どんな毒性があり、被害とどうつながっているのか、どこで混入したのか…。明らかにしなければならないことは多い。

 1月に外部の指摘で被害を確認してから公表までに約2カ月かかった点は問題である。

 事実確認には慎重さもいるだろうが、健康に関わることであり、製品や原料の販路は国内外に広がっている。分かる範囲ずつでも随時、情報を発信して摂取を止めるべきだった。

 特に、被害との因果関係が疑われる同社のサプリは「機能性表示食品」として販売していた。

 健康にどういいのかの機能を表示する制度として2015年に始まった。特定保健用食品(トクホ)のような国の審査はなく、臨床研究などの科学的根拠を示すのは事業者の責任とされている。

 消費者庁は同社に安全性を再検証するよう求めた。消費者・食品安全担当相は、6千件超という全対象品の緊急点検方針も示した。

 製品への信頼を高めているのは国の制度だ。事業者任せにせず、原因究明と安全確保に国も責任を持って当たるべきである。

 

悪いのは紅こうじ?(2024年3月27日『中国新聞』-「天風録」)

 

 全国各地で開花宣言が聞かれる時季だ。国花である桜の下、和食を楽しむ人も多いはず。みそや清酒など和食とその文化を「国菌」とも呼ばれるこうじ菌が発展させてきた。その仲間の紅こうじが今、大きくイメージを落としている

▲紅こうじ菌を米に混ぜ、発酵させた紅こうじ。コレステロールを減らし、血圧を下げる成分があるそうだ。配合したサプリメントや健康食品は多い。だが小林製薬は自社製品に健康被害の恐れありとして回収を進める

▲サプリを摂取していた人が腎疾患で入院した。人工透析が一時必要になった人まで。入院した人の情報はその後も増える。さらに1人が先月死亡していたとは衝撃だ。同社がきのう発表した。3年間摂取した人という。死亡との因果関係が疑われ、調査する

▲食品メーカーに原料として紅こうじは供給されてもいた。みそや菓子、パンなどに使った各社が回収に追われる「被害」も。しかし犯人像は見えない。サプリ原料に「未知の成分」が含まれていたとも小林製薬は言う

▲同社の紅こうじはシロか、それともクロか―。淡いピンクに紅こうじで着色されたお酒もある。杯を安心して傾けつつ、桜を眺められるといいのに。

 

【紅こうじ被害】迅速に情報を開示せよ(2024年3月27日『高知新聞』-「社説」)

 小林製薬大阪市)が製造した「紅こうじ」原料を巡る混乱が広がっている。含有するサプリメントを継続して摂取したとみられる購入者1人が腎疾患で死亡していたことが判明。健康被害の訴えが相次ぎ、食品メーカーなどによる自主回収の動きも拡大した。
 まだ原因成分や摂取との因果関係など不明な点も多い。誰もが口にし得る食品や補助食品の原料に危険があるなら、消費者が不安を募らせるのも当然だ。実態の解明を急ぐことはもちろん、まずは流通範囲などに関する正しい情報を積極的に開示して、不安の拡大を食い止めなければならない。
 小林製薬は2016年に紅こうじ原料の供給を開始。自社製品のサプリなどに使うほか、製造量の8割ほどを子会社を通じて飲料・食品メーカーなどに販売してきた。
 このため問題の発覚以降、自主回収が日本酒や菓子、パン、みそなど幅広い製品で相次いでいる。販売先には卸売業者も含まれることから、品質問題の影響はさらに広がる恐れがある。
 健康被害は、「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロール値を下げる効果をうたった、機能性表示食品の自社サプリで発覚した。多数の人が腎疾患などで入院しており、相談件数も日を追って増加。このうち約3年間にわたって摂取していた購入者がことし2月に亡くなっていた。憂慮すべき事態といわざるを得ない。
 現時点では、原因成分や健康被害との因果関係ははっきりと分かっていない。紅こうじは伝統的な食品原料でもあり、天然の着色料や風味付けなどにも幅広く使われてきたからだ。
 健康被害をもたらした可能性として当初、紅こうじ由来のカビ毒「シトリニン」が注目された。欧州連合(EU)では、筋肉や肝臓の障害が疑われる副作用が報告され、サプリ使用に基準値が設けられたが、今回は検出されていない。
 一方で、一部の原料に同社が想定していなかった成分が含まれていた可能性が浮上したという。この成分にどんな作用があり、なぜ製品に含まれていたのか。再発防止に向け、解明を急ぐ必要がある。
 ただ、消費者の不安の大きさは口にする可能性に比例するといってよい。小林製薬は自社製品はむろん、他社への出荷分も供給網の末端まで確認して、迅速に情報を開示するべきだった。製造・販売元として、その責任を十分に果たしたとはいいがたい。
 同社が健康被害を把握したのはことしの1月。それから自主回収までに約2カ月を要した。
 記者会見では事実確認などに時間がかかったと説明したが、その判断は果たして適切だったか。事態を把握後、速やかに公表していればより早く被害の周知を図り、原料に使われた製品を特定することで、被害や不安が広がることを防げたのではないか。健康に関わる企業の倫理観が問われている。

 

信義耐(2024年3月27日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 スポーツや武道に必要なものの一つに「心技体」がある。これをもじり、社会人に必要なものを「信義耐」とする話を聞いた。信は信用、信頼、信じることの意。義は正義、耐は忍耐を意味するという

◆「紅こうじ」の成分を配合したサプリメント健康被害の恐れがあるとして、小林製薬が自主回収を進めている。このサプリはコレステロール値を下げる効果があるとされ、健康に気をつけている人に人気のようだ。ところが、摂取した人が腎疾患などを発症し、死亡例も報告された。原因究明はこれからのようだが、当分は使用しない方がいい

◆ただ、酒やみそなど、こうじは日本の食文化に欠かせない。紅こうじが今回の件だけで悪者扱いされるのはしのびない。原因を突き止めれば逆に、新たなプラス面の利用につながるかもしれない。今は耐える時だろう。誠実な対応で信頼を取り戻してほしい

◆一方、こちらは信頼回復の道が遠い。米大リーグ、大谷翔平選手の通訳だった水原一平さんである。大谷選手がきのう発表した声明を信じれば、水原さんは違法賭博への関与に加え、借金返済で同意を得ず、大谷選手の口座から送金した疑惑が深まった

◆「金の切れ目が縁の切れ目」といわれるが、本当に怖いのは「信」の切れ目と思う。信義耐。人生を象徴するようで、なかなか奥が深い。(義)