◆虐待の疑いで一時保護 裁判所の判断は…
児相は2019年2月、当時5歳の長男が虐待されている疑いがあるとの保育園の通告をきっかけに、当時2歳の長女とともに2人を一時保護した。その後、家裁は父親による虐待を認め、2人は20年10月に児童養護施設に入所。祖母が2人に初めて面会したのは一時保護から2年6カ月後で、母親は4年後だった。
判決理由で伊藤裁判長は、母親が21年7月まで児相に明確に面会を求めなかったとして「面会制限をやむを得ないと認識していた」と認定し、一時保護や施設入所中に面会を求めたという母親らの主張を退けた。長男は児相スタッフに「優しくなったお母さんに会いたい」と発言していた点についても、判決は「留保のない面会希望とは認められない」と指摘し、面会制限に問題はないと結論づけた。
◆母親「文句を言う回数が足りないと言わんばかり」
判決後に記者会見した母親は「子どもに会いたいという気持ちを踏みにじられた」と涙ぐんだ。原告代理人の井上裕貴弁護士は「児相には口頭や文書を含めれば何十回と面会を求めてきた。文句を言う回数が足りないと言わんばかりの判断だ」と判決を批判した。
◇ ◇
◆面会制限「正当性なし」と賠償を命じたケースも
保護者らが児童相談所の面会制限を不服として自治体を相手取る訴訟は各地で相次いでいる。児相が一時保護した子どもと保護者の面会を制限するケースのほとんどは、任意の協力を前提にした行政指導。児相の裁量で制限が長期にわたるケースもあり、専門家からは手続きの透明化を求める声も出ている。
本紙の調べでは、今回の訴訟を含め、同様の訴訟は東京都内で少なくとも5件が係争中。大阪府では、生後1カ月で一時保護された長女との面会を約8カ月、制限されたとして母親が府を相手取った訴訟で「事実上の強制で正当な理由がない」として違法性を認め、100万円超の賠償を命じた判決が確定した。
児相の対応を巡っては、虐待された児童が死亡するたびに問題視され、積極的介入が促されてきた。
◆「子の安全最優先」で妥当な場合も
児相に勤務経験がある東京通信大の才村(さいむら)純・名誉教授は「子どもの安全を最優先に考え、保護者との面会を一時的に制限するのは妥当な場合もある。だが、長期間会わせない場合、児相は合理的な根拠を説明すべきだ」と指摘する。
実態把握のために厚生労働省が実施した調査によると、2020年10月〜21年3月に225の児相で面会や通信を制限した5109件のうち、行政指導は4987件で97%を占めた。
◆家裁など司法が審査する仕組みを
日本大の橋爪幸代(さちよ)教授(社会保障法)は「行政指導は、適切かどうか外部のチェックが入らない。積極的介入を進めるなら、家裁など司法が妥当性を審査する仕組みを整えた方がいい」と提案。面会を適切に行うには児童福祉司ら専門性のあるスタッフが必要とし「子どもの安全は守りつつ面会の意向も尊重するには児相の人員拡充も望まれる」と強調する。(中山岳)
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