都立高校プール飛び込み事故 都に3億8000万円余賠償命令(2024年3月26日『NHKニュース』)

8年前、都立高校の水泳の授業で教諭の指導に従ってプールに飛び込み大けがをしたとして、当時3年生だった男性と家族が東京都に賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は「前途有望な高校生が事故で重い障害を負い、将来にわたって介助が必要な状態になった」として、都に3億8000万円余りの支払いを命じました。

2016年7月、東京 江東区の都立高校で水泳の授業中、当時3年生だった内川起龍さん(25)が飛び込みをした際にプールの底に頭を打ち、首のけい髄を損傷する大けがをしました。

この事故について、内川さんと家族は教諭の不適切な指導が原因だとして、東京都に賠償を求めていました。

26日の判決で東京地方裁判所の片野正樹裁判長は「前途有望な高校生が事故で重い障害を負い、身体的、精神的な苦痛を被ったほか、将来にわたって介助が必要な状態になった」と指摘して、都に対し3億8000万円余りを支払うよう命じました。

判決は、障害の状態が改善する見込みがないことも踏まえ、慰謝料だけでなく、将来にわたって必要となる車いすの購入費用や介護の費用なども賠償額として認めました。

この事故のあと、東京都教育委員会はすべての都立高校で水泳の授業中の飛び込みを禁止したほか、日本水泳連盟も指導者向けのガイドラインを公表するなど対策が強化されました。

また、この事故をめぐっては指導教諭が業務上過失傷害の罪に問われ、罰金100万円の有罪判決が確定しています。

原告 内川起龍さん「教諭から直接謝罪なく許すことできない」 

判決について原告の内川起龍さんは「事故からおよそ8年が過ぎてしまいました。この間に母が亡くなり大きな支えを失ってしまいました。いつも体調に大きな不安を持ちながら元に戻ることのない不自由な生活を送っています。都には何度も何度もこの事故に関する説明や誠意ある対応を求めてきましたが不十分です。教諭についてはいまだに直接謝罪もなく、判決が出ても許すことはできません」などとコメントしています。

原告の内川起龍さん 法廷で思いを証言

事故で体の自由を失った男性は、同じように苦しむ被害者と、支えてくれた母への思いを胸に、車いすの状態で裁判を闘い続けました。

原告の内川起龍さん(25)は、都立高校の3年生だった2016年7月、水泳の授業で行われた飛び込みの練習で首のけい髄を損傷する事故にあいました。

当時、指導教諭はスタート台のおよそ1メートル先から水面と水平にデッキブラシを差し出し、その上を越えて飛び込むよう指示したということです。

泳ぎが得意で、水泳部にも所属していた内川さんですが、事故のあと手足に強いまひが残り、首から下を自由に動かすことができなくなりました。

介助なしでは生活できなくなり、進めていた就職活動も諦めざるをえませんでした。

事故から4年後、内川さんは教諭の不適切な指導によって事故が起きたとして、母親の美紀さんとともに東京都に賠償を求める訴えを起こしました。

ひとりで内川さんを育ててきた美紀さんは、事故のあとはつきっきりで介助し、夢を絶たれて大きく落ち込んでいた内川さんを励まし続けたといいます。

裁判のために必要な弁護士や都とのやり取りなどもすべて美紀さんが行っていましたが、次第に体調を崩し、おととし、亡くなったということです。

自分だけでなく、家族にも大きな影響を与えた事故の重大さを分かってほしいと内川さんは法廷で思いを証言しました。

そのときの心境について「事故がなければこんなに早く母が亡くなることはなかったと思います。母の大変さを伝えたかった、聞いてほしかった」と振り返ります。

26日の判決を前に内川さんは「学校事故の判例として、ほかの被害者も使えるようにしたい」と、同じような事故で苦しむ人の助けになりたいという思いを語りました。

そして、あとを絶たない学校での事故について「講習を増やしたり、責任者だけでなく教諭全員が受講したりするなどのルールを作れば、学校事故は減らせると思う。完全になくすことは難しくても少しでも減ってほしい」と話していました。

“判決を真摯に受け止める” 東京都は控訴しない考え示す

判決について、東京都教育委員会の浜佳葉子教育長は「都の教員の不適切な指導により重大な障害を負わせてしまったことに改めてお詫びを申し上げます。判決を真摯(しんし)に受け止め、このような事故を二度と発生させないよう、未然防止に引き続き全力で取り組んでまいります」とコメントを出しました。

そのうえで、都は控訴しない考えを示しました。

 

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