二階氏の不出馬表明 処分逃れ、裏金解明遠のく(2024年3月26日『河北新報』-「社説」)
自民党派閥のパーティー収入裏金事件で党内最多となった裏金の使途や派閥会計の詳細については何も語らせぬまま、退場を許すことになる。
党総裁として4月上旬に行うとしている関係者の処分を前に先手を打たれた格好で、岸田文雄首相の対応の鈍さがさらに浮き彫りになったと言うべきだろう。
自民党の二階俊博元幹事長がきのう、党本部で記者会見し、次期衆院選に立候補しない意向を表明した。自身が率いた二階派(志帥会)の事件を踏まえ、政治責任を明らかにすると述べたが、詳しい説明は避けたままだった。
二階派はパーティー収入のノルマ超過分を派閥から所属議員に還流していたほか、二階氏側は超過分を派閥に納めず事務所にプールしていた。
二階氏の秘書は2022年までの5年間で、派閥から受け取った計3500万円超を政治資金収支報告書に記載しなかった政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で有罪が確定。派閥の元会計責任者も5年間で収入・支出計約3億8000万円を過少記載したとされ、在宅起訴されている。
二階氏の不記載額は、党のアンケートで不記載が確認された議員の中で最多。事件を受けて訂正された収支報告書でも「書籍代」として約3470万円の支出が追加計上されるなど、不透明な点が数多く残されたままだ。
先月末の衆院政治倫理審査会(政倫審)には二階派から事務総長の武田良太元総務相が出席したものの、「経理だけは事務局長に全て任せていた」と語り、還流や不記載の経緯、実態については知らぬ存ぜぬを繰り返した。
会見では野党が要求する政倫審出席に関する質問も出たが、側近議員が代わって「いちいち出なくても分かってもらえるとわれわれは判断した」と回答。二階氏本人は記者に向き合いもせず、説明を拒む姿勢をあらわにした。
岸田首相は二階氏から不出馬の意向を伝えられ、「『熟慮の結果だろうから、重く受け止める』と申し上げた」という。
17日の党大会で裏金議員に対し「説明責任を貫徹すべく引き続き促す」と語っていた首相の決意は、一体どこへ行ったのか。これでは言行不一致との非難は免れまい。
二階氏を巡っては幹事長在任中の5年間で計50億円の政策活動費を党から受け取っていたことも判明。国会では野党が使途の公開を迫っているが、これにも首相は何ら根拠を示さず「適切に使用されている」と繰り返すだけだ。
二階氏が事件に関する説明責任を果たさず、処分さえ免れて政界を離れれば、「政治とカネ」を巡る問題の解明はいっそう遠のくことになる。
今後の安倍派幹部の処分と合わせ、「幕引き」を急ぐ自民の思惑を許すわけにはいかない。野党は結束してさらに追及を強めるべきだ。
二階氏の不出馬表明 責任逃れの幕引き許されぬ(2024年3月26日『中国新聞』-「社説」)
自民党の二階俊博元幹事長がきのう記者会見し、次の衆院選に立候補しないと表明した。二階派の政治資金パーティー裏金事件の責任を取るためと理由を述べたが、誰がどう事件に関与したかなど、不明な点があまりにも多い。
二階氏は「政治不信を招く要因となった」と謝罪し「政治責任は全て監督責任者である私自身にある」と述べた。ただ政治倫理審査会に出席しないなど、事件に関する説明の機会を設けていない。表舞台から去る決断は結構だが、説明責任から逃れようとしているとしか思えない。国民の政治不信は深まるばかりだ。
二階派は2018年からの5年間で、政治資金収支報告書の収入と支出に計3億8千万円を過少記載したとして、元会計責任者が政治資金規正法違反の罪で在宅起訴された。二階氏自身は派閥パーティー券の販売ノルマを超えた売り上げ約3500万円を裏金化したとして秘書が略式起訴され、有罪になった。
自民党は安倍派と二階派の議員80人規模を4月上旬にも一斉処分する方向で調整している。このタイミングでの「立候補しない」との表明には、処分を回避して追及を逃れたい思いが透ける。
二階氏には19年参院選広島選挙区を舞台にした大規模買収事件で、河井克行元法相に多額の現金を提供した疑いもある。幹事長在任中に約47億円もの政策活動費を受け取ったが、使途に関する明快な説明はない。「政治とカネ」問題を巡る根深い悪習を断ち切らねばならない。未解明のままふたをしてはならない。
裏金事件を巡っては衆参両院の政倫審に出席した安倍派議員の証言が食い違い、同派の組織的な裏金づくりの経緯は明確にならなかった。
共同通信社が今月上旬に実施した世論調査でも、政倫審に出席した安倍派と二階派の幹部について「説明責任を果たしていない」と受け止める回答が9割を超えた。8割近くが事件に関与した両派の幹部に「重い処分が必要」とした。国民は納得していない。
政治資金パーティーを悪用した裏金づくりを誰が指示し、どのように使われたかを明らかにする必要がある。事実がはっきりしなければ適切な処分などできず、再発を防ぐ対策も取れない。野党は偽証罪が適用される証人喚問を要求している。追及の手を緩めるべきではない。
首相は、影響力の強い二階氏の処分に苦慮していたとされる。二階氏が自発的に「立候補しない」と表明したことで党内処分を進めやすくなったとの見方がある。安倍派幹部4人には自ら追加聴取する方針だ。一方、きのうの参院予算委員会では自身への処分に否定的な見解を示した。自身に広島市であった任意団体主催の会費制パーティーを巡る疑惑が浮上している。こちらの説明責任を果たしたといえるのだろうか。
事件の幕引きに向けた党内調整に力を割いてばかりで、肝心の裏金事件の実態解明は全く進んでいない。国民が到底受け入れられる状況でないことは明らかだ。