ブームから20年(2024年3月25日『高知新聞』-「小社会」)

 高知競馬で最大のレースといえば、3月の黒船賞になる。中央競馬の強豪馬と騎手が参戦する交流重賞で、今年はあすファンファーレが鳴る。

 1998年から続く賞だが、2004年の開催日が歴史的だった。黒船賞で来高した武豊騎手が、別のレースでハルウララに騎乗。負け続けながらも懸命に走る「負け組の星」とトップジョッキーのコンビに、競馬場は入場制限するほどにぎわった。

 勝つことが求められる競馬で1勝もできない。そんな馬が注目されたのは、平成の大不況下にあって大勢の人が彼女に自らを重ねたから。廃止危機にあった競馬場の大きな支えにもなった。

 あれから20年、隔世の感がある。ネット投票の普及で高知競馬の業績は回復。一時は40億円を割った年間売り上げが23年度は970億円超で最高となる見通しだ。人間なら80歳ほどになったハルウララは、千葉の牧場に健在。古巣の活況は届いているだろうか。

穏やかに時を過ごすハルウララ

 その彼女に今、会いに来る若者が絶えないそうだ。「ウマ娘」という人気ゲーム・アニメに登場するからだという。競走馬を擬人化したコンテンツが現れ、それがヒットするとは、これも20年前は思いもしなかった。

 世の中が急速に変わる。もっとも、彼女の近況を報じる動画によれば、現役時代同様にマイペースを貫いているようだ。人間様の事情はどこ吹く風といった趣で、その姿にどこか安堵(あんど)してしまう。まだまだ長生きを。

 

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