米アカデミー賞に関する社説・コラム(2024年3月17日)

アカデミー賞 日本の技術が世界を魅了(2024年3月17日『新潟日報』-「社説」)

 

 得意とするアニメーションと、伝統的な特撮を含む視覚効果(VFX)の分野で、日本映画が高く評価されたことを喜びたい。

 受賞作には日本が誇る映画技術の粋が集まる。世界のファンを魅了する技術を磨き、価値ある産業としてさらなる成長を期待する。

 米映画界最大の祭典、アカデミー賞が発表され、長編アニメーション賞に宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」、視覚効果賞に山崎貴監督の「ゴジラ-1・0(マイナスワン)」が選ばれた。

 宮崎監督作の受賞は2003年の「千と千尋の神隠し」以来21年ぶり2度目だ。配給元の東宝によると、視覚効果賞はアジアの作品で初めてになる。

 宮崎氏の「最後の長編」を支えたいとの思いで第一線のクリエーターが参集した。

 山崎氏は特撮に憧れて映画の道へ進んだことが結実した。

 日本のアニメの特徴について、映画評論家は「監督の個性やメッセージを打ち出しながら進化してきた」と解説する。実写映画と同様、海外には特定の監督作を理由に観賞する人が多いという。

 「君たちは-」は宮崎氏が感銘を受けた吉野源三郎の同名小説から題名を付けた。難解な印象も受けるが、異世界に迷い込む冒険ファンタジーは欧州では古くから語り継がれるスタイルだろう。

 一方、「ゴジラ-1・0」は1954年に公開された「ゴジラ」の70周年記念作だ。VFXを駆使し、特撮で製作されてきたゴジラの風合いを損なわず、ダイナミックな映像を作り出した。

 世界のクリエーターがしのぎを削る最先端の映像表現と認められた理由を、映画に詳しい識者は「日本のアナログ特撮の『箱庭美』が継承されている」とみる。

 巨額の予算で宇宙などを舞台にするハリウッド映画と比べ、山崎氏が低予算で描いた東京・銀座の街はきめ細かく、その映像美はまねできないものだといえる。

 日本発のアニメや漫画、ゲームなどのコンテンツ産業を巡り、2021年の海外市場規模は4兆5千億円と推測される。経団連は33年には3~4倍に拡大させる目標を掲げ、政府などに人材育成や海外展開への支援を求めている。

 世界的にコンテンツ市場が急拡大する中、高い日本の競争力を落としてはならない。環境への負荷や資源の制約は少なく、日本経済を自動車産業のようにけん引するものとして育てていくべきだ。

 本県は多くの漫画家を輩出し、新潟市にはアニメや漫画を学ぶ大学や専門学校が集積している。

 折しも市内では、長編アニメのイベントではアジア最大級の「第2回新潟国際アニメーション映画祭」が開かれている。

 世界に冠たるアニメ文化と産業の街となり、交流人口を伸ばして地域活性化につなげたい。
   
日本の特撮映画(2024年3月17日『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 巨大化した鳥のような怪獣が降りた博多の町。強風を巻き起こす羽ばたきで看板や瓦が飛ぶ。ビルの中では人々が逃げ惑う様子が窓から見える―。映画「空の大怪獣ラドン」(1956年)のワンシーンだ。

 「ゴジラ」(54年)をはじめ東宝特撮映画の黄金期を回顧する「特撮映画美術監督井上泰幸」(キネマ旬報社編)によるとビルの人々は合成ではなく、ミニチュアの中に入れ込んだ鏡に人を映し込みながら撮影。試行錯誤を重ねた迫力の場面は今も特撮映画の伝説だ。

 核爆発で吹き飛ばされる都市のセットではお菓子のウエハースを使った。軽くて粉々になる効果が出るためだ。多くの映画に関わった井上泰幸は「子ども向けの感覚はなく、常に本物を再現する意気込みだった」と語る。高度感や遠近感、「時代の空気」にもこだわった。

 現在の映画のレベルから見れば”模型感”は否めないが、CG(コンピューターグラフィックス)にはないリアルさは今も魅力だ。この日本が得意とするミニチュアの実写にVFX(視覚効果)を駆使した映画「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」(山崎貴監督)がアカデミー賞の視覚効果賞に輝いた。

 長編アニメーション賞の「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督)とともに栄誉をたたえたい。ただ特撮もアニメも長年、日本よりも海外で高く評価されてきた分野。国内にはまだ、世界的に脚光を浴びるべき技術や人材が眠っているのではとも思ってしまう。