赤字、2024年問題…値上げしても減便(2024年3月2日『毎日新聞』)

路線バス苦境「アリ地獄」  

とさでん交通が運行する路線バスと路面電車は高知市民の生活を支える足だ=高知市内で2024年2月19日、前川雅俊撮影拡大
とさでん交通が運行する路線バスと路面電車高知市民の生活を支える足だ=高知市内で2024年2月19日、前川雅俊撮影

 市民の生活を支える「足」が、苦境に陥っている。高知市の中心部と周辺地域を結ぶ路線バスなどを運行する第三セクターとさでん交通」(高知市)は、路線バス事業の慢性的な赤字と運転手不足に悩まされてきた。運輸業界などで2024年4月から残業時間などの規制が強化され人手不足が深刻化する「2024年問題」がさらに追い打ちをかける。同社は抜本的な路線再編を検討せざるを得ない状況で、10月からは減便に踏み切る方針だ。

 とさでん交通によると、所属するバス運転手は23年12月時点で計177人(路線バス128人▽高速バス31人▽貸し切りバス18人)。路線バスの運行維持に必要な定員は147人で、現状は約20人足りない。不足分は時間外労働やOBの臨時雇用、高速・貸し切りバス運転手の応援などでなんとかしのいできた。

 運転手全体の平均年齢は52歳を超え、ほぼ半数が55歳以上と高齢化している。毎年3人の採用を前提とした同社の推計によると、運転手の総数は25年に159人、30年に99人、35年に50人――となる見込み。さらに、38年には現在の5分の1以下となる32人にまで減るとしている。

 運転手不足の背景には、労働時間が長い割に賃金が低水準で、成り手が少ないという事情がある。とさでん交通高知市高知県などから補助金を受けて路線バス事業を続けているため、賃金を大きく増やすのは難しい。待遇改善の原資にするため、10月から運賃を値上げする方向だ。

 この状況に追い打ちをかけるのが、24年4月からの労働時間の規制強化だ。終業から次の始業までの休息時間が8時間以上から9時間以上に延びる。これまでは午後10時に退勤し、通勤時間帯に合わせて翌朝6時台に出勤するようなシフトを組んでいた。わずか1時間の違いだが、影響は大きい。同社の伊藤栄・自動車戦略部長は「朝の便数を見直さないと対応できない。10月に向けて対象路線を検討している」と説明する。

 経営も厳しい。路線バス事業は16年度から赤字が続いている。22年10月~23年9月までの1年間は4億8946万円の赤字。地方路線バス維持のための国土交通省などの補助金制度で高知市から1億7696万円、高知県から4579万円、国から3373万円など計2億8630万円の補助金を受けたが、差し引き2億316万円が自社で負担する赤字として残った。自社負担額は年々増えている。

 とさでん交通は、路線バスと路面電車の赤字を、高知空港のカウンター業務などの航空関連事業や高速・貸し切りバス事業の黒字で補塡(ほてん)していた。ところが、新型コロナウイルスの影響で収益部門の業績が軒並み悪化。路線バスの赤字を支えきれなくなっている。現行の国や自治体の補助金制度では、収入が増えるとその分、補助金が減らされる。増収のためにかかった経費は補助の対象にならない。

 「自社赤字が増えることはあっても減ることはない仕組みになっている。アリ地獄のような状況で、持続可能ではまったくない」。2月19日に開かれた高知市地域公共交通会議で、同社の樋口毅彦社長は苦境を訴えた。同社は、今後の方策として会議に提出した資料に「制度の改善と合わせ、現在の補助合計額程度の額で赤字を埋められる程度にまで、走行距離を縮小(路線再編、減便)していくことを目指すしかない」と明記した。

 大株主である高知市の桑名龍吾市長は同27日の定例記者会見で「とさでん交通の状況は理解しているが、今ある路線については何らかの形で維持し続けたい」と述べた。とはいえ、高知市も財政が苦しいのが現実だ。

 運転手不足と積み上がる赤字。人口減少と高齢化に歯止めがかからない中、将来を見据えて地域の足をどう守っていくのか。課題は重い。【前川雅俊】

とさでん交通

 高知県高知市など13自治体が出資する第三セクターで、高知市内を中心に路面電車や路線バスなどを運行している。2014年10月、路線バス事業で多額の債務を抱えていた土佐電気鉄道高知県交通の事業を引き継いで発足した。地域の公共交通を守るために金融機関が債権の一部を放棄し、関係自治体が10億円を出資した。持ち株比率は高知県が50%、高知市が34・97%。