次期戦闘機輸出 与党内で決めていいのか(2024年3月24日『熊本日日新聞』-「社説」)

 日本の平和主義、安全保障の根幹に関わる重要な問題を、与党内の議論だけで決めていいのか。高い殺傷能力を持つ武器の輸出ルール変更を閣議決定に委ねる政府の姿勢には、疑問を禁じ得ない。

 2035年配備を目指し、日本・英国・イタリアが共同開発する次期戦闘機について、自民と公明両党は日本から第三国への輸出を解禁することで合意した。政府は26日に輸出方針を閣議決定し、国家安全保障会議NSC)で「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定する見通しだ。

 輸出に慎重な公明に譲歩し、対象は次期戦闘機に限定した上で、輸出先を「防衛装備品・技術移転協定」の締結国に限り、戦闘が行われている国は除外するとした。今後の輸出は個別案件ごとに閣議決定するという。岸田文雄首相は与党協議を経て閣議決定する「手続きの厳格化」で「平和国家としての基本理念を堅持することを明確な形で示す」と強調する。

 しかしこれらの歯止めが機能したとしても、輸出先の国で将来、戦闘が起きない保証はない。日本が輸出した武器が使用されれば、間接的に紛争に加担したことになるだろう。憲法がうたう平和主義が損なわれるだけでなく、攻撃対象となる恐れも生じかねない。

 何より与党内で完結する手続きでは、国会で成否に関わることもできない。なし崩しに武器輸出が拡大するのではないかという不安を抱いている国民もいるはずだ。少なくとも、国会が関与できる仕組みをつくるべきではないか。

 次期戦闘機の開発を巡っては、英伊両国は生産コストを下げるために第三国への輸出を重視しており、日本にも同様の対応を求めたという。パートナー国として対等な立場を保ち、日本が求める性能を持つ戦闘機を実現する-。第三国輸出は「国益」のためと岸田首相は言い切った。

 本来ならば今回の議論は、共同開発を決める際になされるべきだった。政府は、当初は第三国への輸出が前提ではなかったと説明するが、にわかには信じ難い。仮に意図的に議論を遅らせたのならば国民への背信行為であり、自公協議も「結論ありき」ではなかったかとの疑念もくすぶる。

 原則として武器輸出を禁じていた日本が「武器を売る国」に転じたのは14年。安倍政権が武器輸出三原則に代えて新たに防衛装備移転三原則を閣議決定し、輸出拡大による安全保障関係の強化と防衛産業育成にかじを切った。

 岸田政権はその流れを加速させている。昨年末には、外国企業のライセンス生産品の本国への輸出を解禁し、殺傷能力のある武器の完成品の輸出に道を開いた。

 日本の安全保障環境は厳しい現実に直面している。国際情勢の変化に応じて、国際共同開発や防衛装備品の輸出など安保政策を見直すべきという意見も根強くある。平和国家のあり方を巡る議論は、国民に開かれた場所でなされなければならない。閣議ではなく国会で、議論を重ねる必要はないか。