メニューは冷凍食品だけ約20種類 SNSでバズった「なまけものカフェ」の経営戦略(2024年3月17日『産経新聞』)

 
古民家を改修した冷凍食品専門の「チンしてごちそう♪なまけものカフェ」=大阪市都島区(格清政典撮影)

メニューが冷凍食品のみの「チンしてごちそう♪なまけものカフェ」(大阪市都島区)が、交流サイト(SNS)で話題を集めている。新型コロナウイルス禍を踏まえ、およそ1年前に始めた冷凍食品の無人店舗がわずか数カ月で行き詰まった経験を生かして反転攻勢。子供向けのおまけを付けるなど「親子で楽しめる」という異色の新業態が受け入れられ、客足が伸びている。

本業とコラボで

大阪メトロ都島駅から南へ約3分歩くと、築50年以上とされる2階建ての古民家を改修した店舗がある。

昨年11月に同カフェをオープンした際、動画配信サイト「TikTok(ティックトック)」に「お子様メニューのおもちゃのクオリティーが高すぎるww」とのタイトルでアップしたところ、瞬く間に再生回数は16万を超えて拡散した。

同店のメニューは、オムライスやピザなどの冷凍食品約20種。客からの注文を受けて、スタッフは店内に設置されている電子レンジで温めて提供するだけ。運営する「ISOYU」(同区)の磯遊(いそゆう)晋介社長(39)は「キッズメニューは580円ですが、おまけのおもちゃが本来千円以上で販売しているものばかり」と得意げに話す。

冷凍庫で販売されているメニュー=大阪市都島区(格清政典撮影)

こうした魅力が出せる背景にあるのは本業だ。同社はもともと家電やゲーム、日用品などの卸売りを手がけており、関西を中心に「半額倉庫」を約20店舗を展開。飲食業と組み合わせたことが奏功した。

コロナ禍の無人店失敗

ただ、およそ1年前の失敗が教訓となっている。新型コロナの影響で非接触無人店が増加した際、同社も注目。昨年1月に大阪市城東区で冷凍食品を扱う無人店をオープンした。

当初は月間約100万円も売り上げたが、わずか約2カ月後には半減。1年ほど過ぎたころには約10分の1にまで落ち込み、今年2月に閉店した。

「オープン当初は物珍しいだけに売り上げが伸びたが、コロナ禍が過ぎ去るとスーパーにはとても太刀打ちできず、限界を感じた」と振り返る。

その一方で、近年は栄養価が高く体にやさしい無添加食材を扱った冷凍食品が注目されている。こうした冷凍食品の需要に着目し、「親子カフェ」という新たな付加価値を打ち出した。

人件費を極限まで削減

「店長はナマケモノで料理をなかなか作らない」「スタッフのペンギンが作った冷凍庫で、店長の料理を冷やしておく」…。店内は絵本の中のようなストーリーを演出。古民家を活用しているだけに、居間でくつろいでいるような雰囲気に包まれる。

貸し切りにすると親子などでのパーティーも開催できる=大阪市都島区 (ISOYU提供)

また、店内で子供たちが遊べるよう、おもちゃや絵本などが多数並ぶだけでなく、授乳室やおむつ替えコーナーも完備し、保護者のニーズも考慮している。

一方で店側のメリットもある。冷凍食品をレンジで温めるだけなので、スタッフは包丁も火も使わずに済み、完全予約制にしたため常駐する必要もない。「人件費は極限まで削減できる」(磯遊社長)という。

通常営業は大人(中学生以上)600円、小学生以上300円、3歳以上200円(1時間あたり、フリードリンク制)の入場料が必要。週末にはレンタルスペース(1階部分1時間2千円、飲食代別途)としての利用も増えている。

開店以降、順調に利用者が増えているといい、磯遊社長は「古民家を活用した新たなビジネスモデルが見えてきた。今後はフランチャイズ展開なども考え、店舗を増やしていきたい」と話している。(格清政典)