日立造船社員が過労自殺 初の海外赴任で未経験業務、ミス叱責も(2024年3月25日『毎日新聞』)

日立造船本社=大阪市住之江区で2024年3月24日、大西岳彦撮影

日立造船本社=大阪市住之江区で2024年3月24日、大西岳彦撮影

 東証プライム上場の大手機械メーカー「日立造船」(大阪市)の若手社員が赴任先のタイで自殺し、3月に労災と認定されたことが判明した。この社員は初めての海外勤務だったのに専門外の業務を命じられ、上司にミスを度々叱責されていたという。社員がこれらの複合的な要因で精神疾患を発症し、自殺したと判断された。

 亡くなったのは、北陸出身の上田優貴さん(当時27歳)。遺族や代理人弁護士によると、上田さんは大学院修了後の2018年4月に入社し、主に海外のごみ焼却施設などの設計業務を担当。入社3年目の21年1月20日にタイへ渡航し、日本にいる頃から関わっていたタイ中部ラヨーンでのごみ焼却発電所建設プロジェクトに従事していた。だが約3カ月後の4月30日、施設内で倒れているのが見つかり、死亡が確認された。

タイ中部ラヨーンの位置
タイ中部ラヨーンの位置

コロナ禍で実地研修もなく

 上田さんには外国出張の経験がなく、海外勤務はこれが初めてだった。当時は新型コロナウイルスの感染が広がっており、通常行われる実地研修も受けられずに渡航した。タイでもコロナ禍で休日はホテルに籠もりがちになるなど孤独な状況に置かれた。タイ語を一切話せないうえ現地では英語に堪能な人が少なく、コミュニケーションで苦労する様子が見られたという。

上田優貴さんが赴任先のタイで書いていた日記。「毎回おこられてばかりでとてもつらい」などと記されている=大阪市北区で2024年3月21日午後3時21分、鈴木拓也撮影拡大
上田優貴さんが赴任先のタイで書いていた日記。「毎回おこられてばかりでとてもつらい」などと記されている=大阪市北区で2024年3月21日午後3時21分、鈴木拓也撮影

 業務も当初は日本にいた時と同様、電気設備の設計を任されたが、3月中旬から発電所の試運転に携わるようになった。それまで全く経験がなく、知識もないためミスが多くなり、他の従業員の面前で上司から毎日のように叱責されたという。さらに、頼りにしていた別の上司が4月に帰国する一方、自身の帰国は5月末から7月末に延長され、当時の日記に「仕事がぜんぜんできなくて毎回おこられてばかりでとてもつらい」とつづっていた。3月中旬~4月中旬の残業時間は100時間を超えていた。

会社側、自殺か事故か結論つけず

 日立造船側は上田さんの死を自殺か事故か断定できないとしたが、遺族側は「転落場所で行う作業はない」との社員の証言や転落時の防犯カメラ映像から自殺だと主張。大阪南労働基準監督署大阪市)は24年3月4日、過労自殺と認めた。

 遺族の代理人を務める岩城穣(ゆたか)弁護士(大阪弁護士会)によると、労基署は海外勤務や経験のない業務への対応、ミスへの厳しい叱責が上田さんに強い心理的負荷を与えたと指摘。亡くなる直前に精神疾患を発症していたと認め、自殺に至ったと結論付けた。岩城弁護士は「海外に赴任する若手社員に企業は慎重に配慮する必要がある。この件が労災と認められた意義は大きい」としている。

 日立造船広報・IRグループは取材に「当社として労災認定の事実を確認できていないため、コメントは差し控える」と答えた。【鈴木拓也】

 

「死の真相知りたい」タイへ渡った母の労災申請、会社の判断覆す(2024年3月25日『毎日新聞』)

 

亡くなった上田優貴さんの遺影を手に、息子の思い出を語る母直美さん=大阪市北区で2024年3月21日、梅田麻衣子撮影

亡くなった上田優貴さんの遺影を手に、息子の思い出を語る母直美さん=大阪市北区で2024年3月21日、梅田麻衣子撮影

 海外赴任中に亡くなった社員の死亡原因が事故か自殺か分からない――。そんな会社の曖昧な判断を覆し、労働基準監督署過労自殺と認めた。社員の母が「死の真相を知りたい」と異国の地に渡り、現地を確認するなどして労基署に訴えた行動が認定につながった。

「忙しいけど楽しい」 その後、暗転

 「息子さんが転落して亡くなりました」。3年前の春、北陸で娘らと暮らす上田直美さん(52)は日立造船大阪市)の関係者から突然の訃報を受け取った。長男の優貴さん(当時27歳)が赴任先のタイで亡くなったという。悪い夢を見ているようで頭が混乱した。

 2人きょうだいの優貴さんは、真面目で優しい性格。子どもの頃から数学や物理が得意で、大学と大学院では電気工学を専攻した。地元を離れ、第1志望の日立造船に入社。ごみ焼却施設の設計などを担うようになった。…

 

 相談窓口

・#いのちSOS

 「生きることに疲れた」などの思いを専門の相談員が受け止め、一緒に支援策を考えます。

 0120・061・338=フリーダイヤル。月・木、金曜は24時間。火・水・土・日曜は午前6時~翌午前0時

いのちの電話

 さまざまな困難に直面し、自殺を考えている人のための相談窓口です。研修を受けたボランティアが対応します。

 0570・783・556=ナビダイヤル。午前10時~午後10時。

 0120・783・556=フリーダイヤル。午後4時~同9時。毎月10日は午前8時~11日午前8時、IP電話は03-6634-7830(有料)まで。

・まもろうよ こころ(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/sns/

 さまざまな悩みについて、LINEやチャットで相談を受けている団体を紹介する厚生労働省のサイトです。年齢や性別を問わず、自分に合った団体を探せます。

・こころの悩みSOS(https://mainichi.jp/shakai/sos/

 悩みを抱えた当事者や支援者への情報のほか、相談機関を紹介した毎日新聞の特設ページです。