大阪市に本社がある機械メーカー、日立造船に勤務していた男性社員が、3年前、海外赴任先のタイで自殺したのは慣れない業務による負担や上司の厳しい指導などで精神疾患を発症したことが原因だとして、労働基準監督署から労災に認定されたことを家族や弁護士が明らかにしました。
初めての海外勤務 上司から厳しく指導
会見で母が語ったことは
会見の中で、母親の直美さんは、まず息子の優貴さんの人柄について、こう語りました。
優貴は私たちの一人息子で、名前の漢字どうり優しい子でした。大学院で電気工学を専攻し、環境と電気をつなぐ仕事がしたいと北陸を離れ、2018年4月、大阪の日立造船株式会社に入社しました。LINEでは『希望していた電気グループに配属されてよかった。社内試験に合格しました』などちょっとした近況を報告してくれました。
また、年2回のボーナス時には、ルンバやサイクロンクリーナーなど自分の一押しの家電製品など送ってくれる家族思いなところがあり、私が『自分で稼いだお金だから自分の好きなように使いなさい』と言っても、毎回何か送ってくれるそんな息子でした。
海外での仕事については、期待を持っている様子で、安心していたといいます。
大阪で一緒に食事をしたとき、仕事がどうと尋ねたところ、『忙しいけど楽しいよ。いろんな国籍の人がいてね』と文化の違いを教えてくれて、『いつか自分も先輩のように海外に行くと思うよ。マレーシア、タイ、ドバイ、インド、世界中にゴミ焼却施設があるからね』と、息子の将来は希望に満ちあふれているようで安心しました。
2020年12月中旬にLINEで『1月20日からタイに行くことになりました。5月のゴールデンウィークが終わったころには帰ってくる予定です』と伝えてきて、コロナ禍で何度も海外に行く予定がなくなったり、延期になっていたので、ようやく自分が設計したものが実際に動くよう調整や確認ができるという気持ちが大きくなっていたと思います。手帳には持って行く物リストがたくさん書いてありました。
ところが、ゴールデンウィーク中の5月1日に日立造船本社から一本の電話がかかってきました。『昨日の(4月)30日の14時ごろ息子さんが現場で転落して亡くなりました』仕事中だった私は、夢を見ているのだと思い、いったん電話を切り、早く夢からさめてほしい。早く早くと頭が真っ白な状態で再び仕事に戻りました。しかし夢からはさめず、それは信じられない現実でした。
「今になって父の子でよかったと思う」
優貴さんは現地で『一日三行ポジティブ日記』というタイトルの日記をつけていました。母親の直美さんは会見の中で、日記の最終ページに書かれていた内容の一部を読み上げました。
父親に感謝を伝える。
かなり長い時間プレッシャーの中で働くことの大変さに気付いて今まで距離を取っていたことを申し訳なく思った。
誰よりも真面目で辛抱強い父だといまさらながら気付いた。
俺は今27歳。親父は56歳。何とか感謝を伝えたい。
働くことはめっちゃつらいし、つらい中で家族を守ることはとても大変だと感じた。
今俺は仕事が全然できなくて毎回怒られてばかりでとてもつらい。
でもなぜか今になって父のことを思い出す。
父は働いているとき何を思って何をやりがいに感じて仕事をしてきたんだろう。
朝早くから夜遅くまで働いていることはすごい。
それを30年近く続けることは並外れた努力のたまもの。
今になって父の子でよかったと思う。
そのうえで、直美さんは最後に今の思いを語りました。
毎年ゴールデンウィーク近くになると息子が『ただいま。海外は大変だったよ。もう行くもんか』。そんな愚痴を言いながら帰ってくるのではないかと待っている自分がいます。息子と夕飯を食べながらもっと楽しい話をたくさんしたかったです。会社に申し上げたいのは従業員一人一人大切に思っている家族がいることを忘れないでほしいと思います。そして元気だった息子を私たちに返してください。
第三者委員会「自殺か事故か認定できず」
労災が認定されたことについて日立造船は、次のようにコメントしています。
「あらためてご冥福をお祈り申し上げます。会社として誠意を持ってご遺族に対応させて頂きたいと考えています。今後、2度とこのようなことが起きないように再発防止に向けた取り組みを進めていく所存です」
悩み抱える人の相談窓口
不安や悩みを抱える人の相談窓口は、厚生労働省のホームページなどで紹介しています。
インターネットで「まもろうよこころ」で検索することもできます。
電話での主な相談窓口は
▼「よりそいホットライン」 0120-279-338、
▼「こころの健康相談統一ダイヤル」 0570-064-556
となっています。