日立造船の27歳社員 赴任先タイで自殺 精神疾患発症で労災認定(2024年3月25日『NHKニュース』)

大阪市に本社がある機械メーカー、日立造船に勤務していた男性社員が、3年前、海外赴任先のタイで自殺したのは慣れない業務による負担や上司の厳しい指導などで精神疾患を発症したことが原因だとして、労働基準監督署から労災に認定されたことを家族や弁護士が明らかにしました。

初めての海外勤務 上司から厳しく指導

日立造船に勤務していた上田優貴さん(当時27歳)は、3年前の2021年4月、海外赴任先のタイの工場で高さおよそ30メートルの位置から転落して死亡しました。

これについて、25日、上田さんの母親の直美さんと代理人弁護士が大阪市内で会見し労働基準監督署から今月、労災と認定されたと明らかにしました。

 

それによりますと、上田さんは、初めての海外勤務で、タイのゴミ焼却発電所の建設プロジェクトに従事していましたが当時、新型コロナの影響で事前の現地での研修がなかったほか、途中で派遣期間が延長され、専門外であるプラントの試運転業務にもあたっていたということです。

また、仕事上のミスなどについて上司から厳しく指導されることが何度もあったということです。

弁護士によりますと、労働基準監督署は、海外で慣れない業務にあたっていたことやミスに対する厳しい指導などで心理的な負担が大きく、精神疾患を発症したと認定したということです。

会見で母が語ったことは 

会見の中で、母親の直美さんは、まず息子の優貴さんの人柄について、こう語りました。

優貴は私たちの一人息子で、名前の漢字どうり優しい子でした。大学院で電気工学を専攻し、環境と電気をつなぐ仕事がしたいと北陸を離れ、2018年4月、大阪の日立造船株式会社に入社しました。LINEでは『希望していた電気グループに配属されてよかった。社内試験に合格しました』などちょっとした近況を報告してくれました。

また、年2回のボーナス時には、ルンバやサイクロンクリーナーなど自分の一押しの家電製品など送ってくれる家族思いなところがあり、私が『自分で稼いだお金だから自分の好きなように使いなさい』と言っても、毎回何か送ってくれるそんな息子でした。

海外での仕事については、期待を持っている様子で、安心していたといいます。

大阪で一緒に食事をしたとき、仕事がどうと尋ねたところ、『忙しいけど楽しいよ。いろんな国籍の人がいてね』と文化の違いを教えてくれて、『いつか自分も先輩のように海外に行くと思うよ。マレーシア、タイ、ドバイ、インド、世界中にゴミ焼却施設があるからね』と、息子の将来は希望に満ちあふれているようで安心しました。

2020年12月中旬にLINEで『1月20日からタイに行くことになりました。5月のゴールデンウィークが終わったころには帰ってくる予定です』と伝えてきて、コロナ禍で何度も海外に行く予定がなくなったり、延期になっていたので、ようやく自分が設計したものが実際に動くよう調整や確認ができるという気持ちが大きくなっていたと思います。手帳には持って行く物リストがたくさん書いてありました。

ところが、ゴールデンウィーク中の5月1日に日立造船本社から一本の電話がかかってきました。『昨日の(4月)30日の14時ごろ息子さんが現場で転落して亡くなりました』仕事中だった私は、夢を見ているのだと思い、いったん電話を切り、早く夢からさめてほしい。早く早くと頭が真っ白な状態で再び仕事に戻りました。しかし夢からはさめず、それは信じられない現実でした。

「今になって父の子でよかったと思う」 

優貴さんは現地で『一日三行ポジティブ日記』というタイトルの日記をつけていました。母親の直美さんは会見の中で、日記の最終ページに書かれていた内容の一部を読み上げました。

父親に感謝を伝える。

かなり長い時間プレッシャーの中で働くことの大変さに気付いて今まで距離を取っていたことを申し訳なく思った。

誰よりも真面目で辛抱強い父だといまさらながら気付いた。

俺は今27歳。親父は56歳。何とか感謝を伝えたい。

働くことはめっちゃつらいし、つらい中で家族を守ることはとても大変だと感じた。

今俺は仕事が全然できなくて毎回怒られてばかりでとてもつらい。

でもなぜか今になって父のことを思い出す。

父は働いているとき何を思って何をやりがいに感じて仕事をしてきたんだろう。

朝早くから夜遅くまで働いていることはすごい。

それを30年近く続けることは並外れた努力のたまもの。

今になって父の子でよかったと思う。

そのうえで、直美さんは最後に今の思いを語りました。

 

毎年ゴールデンウィーク近くになると息子が『ただいま。海外は大変だったよ。もう行くもんか』。そんな愚痴を言いながら帰ってくるのではないかと待っている自分がいます。息子と夕飯を食べながらもっと楽しい話をたくさんしたかったです。会社に申し上げたいのは従業員一人一人大切に思っている家族がいることを忘れないでほしいと思います。そして元気だった息子を私たちに返してください。

三者委員会「自殺か事故か認定できず」

日立造船では、弁護士でつくる第三者委員会を設置し、去年11月に調査報告書をまとめています。

その中では、上田さんの死亡について「自殺なのか偶然の事故によるものなのかは認定できなかった」としています。

一方、上田さんが現地でつけていた日記の中に「昼までは死にたかった」などと自殺に言及する記載があったことを認定しています。

上田さんの日記

また、現地での上田さんの業務が専門とする電気設備の立ち上げ業務からプラントの試運転業務に変わった後、時間外労働が急激に増加しているとしています。

また、上司からの指導や注意については「一部感情的なものがあったが、社会通念上相当な範囲を超えるものとまでは認められなかった」としています。

その上で報告書では、上田さんは、「慣れない試運転業務や時間外労働の急激な増加等による疲労の蓄積、他のメンバーからの注意・指導による心理的負担等が積み重なっていたことが認められる」と結論づけています。

労災が認定されたことについて日立造船は、次のようにコメントしています。

「あらためてご冥福をお祈り申し上げます。会社として誠意を持ってご遺族に対応させて頂きたいと考えています。今後、2度とこのようなことが起きないように再発防止に向けた取り組みを進めていく所存です」

悩み抱える人の相談窓口

不安や悩みを抱える人の相談窓口は、厚生労働省のホームページなどで紹介しています。

インターネットで「まもろうよこころ」で検索することもできます。

電話での主な相談窓口は

▼「よりそいホットライン」 0120-279-338、
▼「こころの健康相談統一ダイヤル」 0570-064-556

となっています。