能登半島地震からまもなく3か月です。
被災地では一部で仮設住宅への入居が始まっていますが、異なる環境での暮らしなどから喪失感や孤独を感じる人も出てきています。専門家は心のケアが大きな課題になるとして、積極的な支援が必要だと指摘しています。
70代男性 知り合いが少ない仮設住宅で会話の機会減り…
穴水町の西川松夫さん(76)は地震で自宅が半壊し、2月末から仮設住宅で1人暮らしを始めています。西川さんは高齢のためおよそ40年暮らした自宅の解体を決め、仮設住宅と行き来しながら片づけを進めていますが、喪失感はいまも大きく「最初のうちは涙が出たし、いまも泣きそうになる。思い出ばかりで愛着がある」と話していました。
一方、仮設住宅を少しでも暮らしやすくしようと収納スペースを手作りしたり、自宅から持ってきた思い出の品を飾ったりして工夫しています。
中には、息子と大相撲を見に行ったときに買った地元出身の幕内力士・遠藤の人形などもあり、西川さんは「眺めていると癒やされるので気が休まればと思って持ってきました」と話していました。
ただ、仮設住宅には知り合いが少なく、自宅にいたころと比べると会話の機会が減り、さみしさや孤独を感じることがあるといいます。仮設住宅には談話室があり、ボランティアがお茶菓子などをふるまっていますが、訪れる人はまだ少なく、西川さんはここを拠点に住民どうしの新たなつながりができることを期待しています。
西川さんは「町内会のような集まりもなく、残念でさみしいです。何かきっかけがあれば、みんなが集まって和やかになると思う。すぐには難しいと思うが、これから進んでいってほしい」と話していました。
地震で屋根の下敷きに 恐怖で今も眠れず
石川県珠洲市の正院小学校にある仮設住宅では、2人の保健師が入居者に持病の有無などの健康状態について尋ねたほか、生活で困っていることがないか確認していました。
訪問を受けた65歳の男性は、地震で自宅の屋根の下敷きになりろっ骨を折るなどのけがをしたため、およそ100キロ離れた避難先の金沢市の病院でリハビリをしていましたが、珠洲市に戻ってきてからは通院できていないと話していました。
さらに、建物の下敷きになったことでいまも大きなストレスを感じていて、恐怖のあまり眠れなくなることがあると訴えていました。
保健師たちは丁寧に聞き取りをしながら珠洲市内の医療機関に通院することを勧めたり、精神的につらくなった時などに相談ができる窓口を伝えたりしていました。
このほか、聞き取りでは近所に知り合いがいるかわからず孤独感から不安を訴える声も出ていて、保健師たちは入居者どうしで交流できるよう集会所で行われるイベントを紹介していました。
訪問を受けた男性は「いろいろな情報を教えてもらいました。相談することで気晴らしにもなるので助かります」と話していました。
保健師の佐々木康介さんは「入居後に1人で家の中に閉じこもってしまう可能性もあるので、定期的に訪問して生活を確認しています。聞いた要望や問題を行政に伝えていきます」と話していました。
災害時の心のケアに詳しい専門家「受け身ではない支援が重要」
仮設住宅での支援について、災害時の心のケアに詳しい福島県立医科大学の前田正治主任教授は、東日本大震災の経験を踏まえて受け身ではない支援が重要だと指摘しています。
前田主任教授は仮設住宅への入居は生活の再建に向けて大きな前進だと評価する一方、ある程度、生活が落ち着くことで「元の生活に戻れるだろうか」といった将来への不安や喪失感が増す可能性があるとしています。
さらに、震災から3か月近くがたち、疲れが顕著に出るなど心身への影響も大きくなるとして「時間がたつことで関心が薄れていくこともあり、悩んでいる人が声を上げにくくなる」と指摘しています。
そのうえで、「石川県では心の悩みの電話相談が始まっているが、『困ったら言ってきてください』という受け身ではなく、訪問していくような積極的な支援が必要だ」と話していました。
また、保健師などの支援者自身が被災していることも多く、通常の業務と並行して支援を続けるのは負担が大きいとして、小さな組織でもいいので専従で行える体制が望ましいとしています。
前田主任教授は「福島県にも多くの人が県外から支援に来て、1年2年とじっくりとケアをしてくれた。今回も少なくとも5年ぐらいの単位でのケアを前提にした組織や受け皿は必要だ」と話していました。