NHK経営委員長(2024年3月24日『しんぶん赤旗』-「主張」)

問われる公共放送の自主自律
 退任した森下俊三氏に代わるNHKの新しい経営委員長に、野村ホールディングス名誉顧問の古賀信行氏が就任しました。経営委員会は、NHKの経営方針や執行部の長である会長を任免する最高意思決定機関です。古賀氏には、公共放送の自主自律を保った運営ができるのか鋭く問われています。

森下氏の不法行為を認定
 というのも、前任の森下氏は、放送番組は「何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定めた放送法3条や、経営委員が個別の放送番組の編集に介入することを禁じた同法32条違反を指摘されながら、反省もなく去ったからです。

 2018年、経営委員会は、かんぽ生命保険の不正販売を告発したNHKの「クローズアップ現代+」をめぐって上田良一会長(当時)を「厳重注意」し、続編を延期させました。当時、経営委員長代行だった森下氏は、日本郵政グループからの抗議に迎合し、経営委員会で「番組は極めて稚拙」などと攻撃、処分を主導しました。

 これは放送法の根幹を脅かす重大問題です。放送現場の自主自律をふみにじり、番組内容に介入することは許されません。

 視聴者や元NHK職員ら約100人が、NHKと19年から委員長になった森下氏に対しNHKの自主自律を問い、経営委員会の議事録と録音データの開示を求める訴訟を起こしました。放送法は経営委員長に議事録作成と公表を義務付けています。しかし、放送法違反が明らかになることを恐れた森下氏は、第三者機関「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」が2度にわたって議事録の全面開示を答申したにもかかわらず、かたくなに拒み続けました。

 東京地裁は2月20日、原告の請求を認め、「録音データは消去した」という森下氏の主張を排してデータ開示を命じました。さらに森下氏には開示を妨害した不法行為があると認定しました。経営委トップの仕事が不法と断罪された責任は重大です。古賀氏は速やかにデータ開示に応じるべきです。

 放送現場の自主自律の保障・番組内容への不介入は、戦時中の「大本営放送」の反省をふまえて確立された大原則です。権力や企業などからの干渉の防波堤になるべき経営委員、とりわけ経営委員長が外部の圧力に呼応することが繰り返されてはなりません。

 ところが、森下氏は問題発覚後も再任され、3期9年間にわたり経営委員を務めてきました。

 経営委員は政府(総務省)が国会に提案し、その同意を得て首相が任命します。国会同意人事は一定の中立性や独立性が求められる機関に対する手続きで、本来国会の大多数の同意を前提にしています。しかし、安倍政権以降、与党多数の賛成で政権寄りの人物が就任する恣意(しい)的な「お友だち」人事が横行しました。安倍政権の総務相だった菅義偉前首相は、経営委員に安倍氏と近しい財界人をすえたことを自著で自慢しています。

選任の制度改革が必要
 暮らし破壊、大軍拡の自公政治が続く中で、NHKの政権寄りの報道姿勢に国民の強い批判があります。政権側の思惑で経営委員が選任されることは異常です。NHKが自主自律を確立し公共放送としての役割を果たすよう、選任のあり方をただす必要があります。