NHK経営委 介入問題幕引きできぬ(2024年3月4日『北海道新聞』-「社説」)

 かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組に関し、NHK経営委員会が当時のNHK会長を厳重注意した問題を巡る訴訟の判決で東京地裁は先月、NHKに経営委議事の録音データ開示を命じた。
 またデータの開示義務を怠ったなどとして、NHKと経営委の森下俊三委員長(当時)に賠償を命じた。NHKは控訴した。森下氏側も控訴の手続きを進めている。
 NHKの最高意思決定機関である経営委の職務に関する賠償命令は異例である。
 公共放送の番組内容に経営委が介入したとすれば、表現の自由に関わる重大な問題であり、放送法に抵触する疑いがある。毅然(きぜん)とした対応を取らなかったNHK執行部側も看過できない。
 森下氏は先月末で任期満了に伴い委員長を退任した。このまま問題に幕引きをしてはならない。NHKは直ちにデータを開示し、経緯の全容を明らかにすべきだ。
 不正販売は2018年4月に報道され、日本郵政グループから抗議を受けた経営委が、10月の会合で上田良一NHK会長を厳重注意した。上田会長は日本郵政側に対して事実上謝罪した。
 森下氏は委員長代行として厳重注意を主導したとされる。その後、19年12月に委員長に就任した。
 厳重注意の事実が明らかになると、経営委は情報開示請求などを経て21年7月に「粗起こし」とする議事録を開示した。
 提訴した原告側は内容が不十分で、正式の議事録や録音データが残っているはずだと訴えていた。
 判決は、録音データは「経営委が削除した」とするNHK側の説明に対して、「削除されたと認められる証拠はない」として現在も存在するはずだと認定した。
 森下氏は、厳重注意は「ガバナンス体制の強化」のためだったとして、番組への介入ではないと一貫して主張してきた。
 だが会合では番組の取材・制作方法にまで踏み込んで批判しており、番組編集の自由を脅かす圧力と取られても仕方がないだろう。
 判決は正式の議事録は存在が認められないと判断した。だとすれば、それ自体が原告側の主張するように、介入を隠蔽(いんぺい)する意図があったことの証しではないか。
 森下氏は委員長として適格性を問われていたのに、委員時代を通じて3期9年の任期を全うした。
 委員は国会の同意を経て首相が任命する。問題発覚後も森下氏がとどまり続けることを認めた経営委と政治の姿勢も問われよう。