パリ五輪へ3カ月 テロ阻止に国際的連携を(2024年4月28日『産経新聞』-「主張」)

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パリ五輪の聖火を引き渡す式典(ロイター=共同)
 
 パリ・オリンピックの開幕まで、3カ月を切った。開会式は7月26日、パリの観光名所が両岸に連なるセーヌ川で行われる。
 前例のない競技場外の式典で、入場行進では各国選手団が船に乗って登場する。斬新で楽しみな演出だが、警備には不安が残る。開会中の各会場も含め、テロ警戒に万全を期すためには、国際的な連携が不可欠だ。
 フランス政府は3月24日、国内のテロ警戒水準を最高レベルに引き上げた。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したモスクワ郊外の銃乱射テロを受けたもので、五輪期間中には連日最大4万5千人の警察と憲兵隊が出動し、軍兵士1万8千人の動員も予定する。さらに欧州を中心とする各国にも警備人員の支援を要請した。
 セーヌ川の開会式では当初計画の観客60万人から30万人に半減させた。マクロン大統領は、安全面になお脅威があれば、会場を郊外サンドニの「フランス競技場」に変更する可能性にも言及している。
 陸上競技や7人制ラグビー、閉会式の会場ともなる「フランス競技場」には悲しい記憶がある。130人が亡くなった2015年のパリ同時多発テロ事件では主要な標的となった。その夜はサッカーのフランス―ドイツ戦に数万の観衆がスタンドを埋めていた。入り口付近などで自爆テロが繰り返され、観客はピッチに避難し、ドイツ代表選手も競技場で一夜を明かした。犯人の一人は観戦チケットを所持しており、スタンドへの侵入を許していれば、惨劇はさらに膨らんでいただろう。
 事件後、犯行グループの複数人が仏当局の監視対象や国際手配中の人物だったことが分かった。テロを未然に防ぐには、情報活用の徹底が欠かせない。モスクワの銃乱射テロでは、米国が提供した事前情報をロシアが生かせなかったことが判明している。パリ五輪へ向けても各国情報機関が目を光らせ、情報を共有することが必須となる。
 仏当局は、ロシアなどによるサイバー攻撃にも警戒を強めている。3年前の東京五輪では、組織委員会によると大会運営のネットワークシステムに約4億5千万回のサイバー攻撃があった。これを防ぎ円滑な運営を守り切った日本の知見は、パリでも大いに役立つはずだ。