政治資金の移動 透明化に反する脱法行為(2024年3月24日『西日本新聞』-「社説」)

 政治資金の透明性を高める政治資金規正法の趣旨に反する。「脱法行為」のそしりは免れない。

 自民党茂木敏充幹事長が、支出の公開基準が緩い政治団体に多額の資金を移していたことが明らかになった。

 茂木氏の資金管理団体から自身の後援会への資金移動は寄付名目で、2008~22年の総額が4億7940万円に上る。後援会の支出の9割強は明細がなく、大半の使い道が見えない状態だ。

 資金管理団体は規正法上の「国会議員関係政治団体」に当たり、人件費を除く1万円超の支出は、1件ごとの使途を政治資金収支報告書に記載することが義務付けられる。全ての領収書を保管し、請求があれば公開しなければならない。外部監査も必要だ。

 これに対し、関係団体に該当しない後援会は「その他の政治団体」となり、政治活動費の5万円以上の支出のみに公開義務があるだけだ。監査も求められない。

 両団体間の資金移動は違法ではない。とはいえ、支出の公開基準が厳しい団体から緩い団体に資金を移せば、使い道の多くは国民の目に触れなくなってしまう。

 資金移動は使途公開を避けるためではないか。そう疑われても仕方あるまい。制度を熟知した「確信犯」と指摘する専門家もいる。

 茂木氏の資金管理団体と後援会の所在地、会計責任者、連絡先は全て同じである。

 同様の資金の移動は、新藤義孝経済再生担当相、小泉龍司法相、棚橋泰文国家公安委員長政治団体でも判明している。他の国会議員も自己点検してもらいたい。

 規正法は、政治活動が国民の不断の監視と批判の下で行われることを旨とする。監視から逃れる資金を増やす行為を放置してはならない。直ちに是正すべきだ。

 「政治とカネ」の相次ぐ不祥事を受け、規正法は07年に改正され、資金管理団体の使途公開基準が強化された。

 茂木氏の団体間の移動額を法改正前後で比較すると、08~22年は00~07年よりも年平均で1・4倍超に増加している。法の「抜け道」が横行していることがうかがえる。

 茂木氏は記者会見で「適切に処理されている」「透明性の向上を図っていくことも検討していく」と語る程度で、多額の資金を移動させた理由は判然としないままだ。

 この問題は国会でも取り上げられた。野党議員が「脱法行為ではないか」と追及すると、岸田文雄首相は「今の法律の範囲内で資金移動が行われていると承知している」と答弁した。

 まるで問題意識が感じられない。むしろ容認していると言っていいくらいだ。

 自民党派閥の裏金事件をきっかけに、規正法の改正が国会で議論される。政治資金の移動問題を踏まえ、使途の透明性を一層高める措置も併せて検討すべきだ。