【県内「お産危機」】「オール高知」で克服を(2024年3月24日『高知新聞』-「社説」)

 産婦人科医師の減少で県内の周産期医療体制がピンチを迎えている。母子の命にかかわる問題であり、安心して出産できない環境は、若者の流出や出産意欲の低下などを招いて人口減少にも拍車をかける。関係機関を挙げて対応を急ぎたい。
 産婦人科医の不足は本県の慢性的な課題だったが、今春、突発的な事情もあって一気に減る見通しになり、深刻な状況が顕在化した。
 具体的には、病院の医師41人が34人となり、10カ所ある分娩(ぶんべん)施設の体制に影響が出るのは必至。医師の時間外労働に上限を設ける働き方改革も加わり、いわゆる「お産危機」を招きかねない状況だという。
 医療関係者らは、危機的状況の中で優先すべきは分娩の安全性の確保と訴える。その通りだろう。そのためには、限られた人材を効率的に配置できるよう施設の集約化が不可欠だとする。現体制にこだわって医師の負担が増し、それが退職などにつながる悪循環を招いてはならない。応急的に医師を増やす策がない以上やむを得ない面がある。
 ただ、それによって分娩施設が遠くなるなどの地域があるかもしれない。集約化の議論はこれからで方向性は流動的だが、サービスが下がる地域があるとすれば、妊婦健診の充実や搬送体制の手配などカバーする代替措置が欠かせない。
 集約化に不安を持つ住民もいることだろう。丁寧な説明を含めて、不安を取り除く対応が重要になる。行政の役割も大きい。
 これらは当面の危機を乗り切るための短期的な課題であり、中長期的には、危機的状況を招いた背景を探り、対応する必要がある。
 そもそも産婦人科医は労働環境の厳しさや訴訟リスクの高さでなり手が少ないとされる。高知の「危機」も今回が初めてではなく、2000年代半ばから何度か社会問題化し、対策が論じられてきた。
 その中で期待されたのが、地元・高知大学医学部での人材育成、供給だった。しかし結果を見れば、期待に応えているとは言い難く、大学側も責任を口にする。
 医師が定着しない要因の一つには、若手医師らがキャリアアップできる環境を重視する傾向が強い中、本県は症例が少なく学ぶ機会が限られることが挙げられる。ハンディがあるのは事実だろう。
 ただ、こうしたハンディに対しては、官学・官民協働の「オール高知」の仕組みで克服を目指してきた経緯もある。県と高知大学、医師会などが2010年、「高知医療再生機構」を設立し、キャリア形成の支援策を構えたのが代表例だ。
 そのような連携体制が十分に機能していたのだろうか。必要ならば取り組みを強めるべきだ。医師不足対策や広域調整は医療政策の根幹業務であり、県も主体性を発揮する必要がある。
 当面の危機を乗り切るとともに、安心して出産できる持続的な地域づくりへ、改めて「オール高知」の体制を確認してもらいたい。