山陰と新幹線 「北陸」延伸の影響 将来見据え、誘致戦略を(2024年3月24日『山陰中央新報』-「論説」)

北陸新幹線の金沢―敦賀間が延伸開業し、JR福井駅に到着した東京行きの一番列車「かがやき502号」を出迎える大勢の人たち=16日午前、福井市


 今月16日に北陸新幹線の金沢-敦賀福井県敦賀市)間が延伸開業して1週間余り。JR西日本が発表した、開業から2日間の金沢-福井間の利用者は上下合わせて約6万人で、同区間の在来線特急の昨年の利用実績に比べ1・2倍になったという。

 金沢-敦賀間の総事業費は約1兆7千億円。延伸によって東京-福井の所要時間は最短2時間51分と、金沢で在来線に乗り換えるより33分短縮された。

 アクセスがよくなるだけに、首都圏や関西圏から福井県を訪れる人は年間約80万人増え、経済波及効果は300億円超との試算もある。福井駅前では再開発が進み、高層の建物が目立つという。ただ、試算通りに進むかどうかは、沿線の魅力アップにかかっているだろう。

 1973年の国の整備計画決定から半世紀以上かかったが、今回の延伸で新幹線網が福井県内にも広がった。これにより、国内で新幹線が走っていないのは島根、鳥取両県や四国4県など14県になった。福井が注目を集めれば集めるほど「山陰にも新幹線を」という声が経済界を中心に広がってきそうだ。

 山陰両県にも73年に、国が建設を開始すべきだと定めた基本計画に盛り込まれた二つの路線がある。大阪から両県を経由して山口県下関市を結ぶ山陰新幹線と、現在のJR伯備線をルートに松江-岡山間をつなぐ中国横断新幹線(伯備新幹線)だ。

 東京-金沢を結ぶ2015年の北陸新幹線開業に伴う沿線の盛況ぶりを受け、山陰でも経済界を中心に待望論が再燃。18年2月には、松江市内で山陰新幹線の早期実現を求める決起大会が開かれ、地元選出国会議員ら約450人が出席し、整備計画への格上げ、そして早期整備へ向けて気勢を上げた。

 ところが、住民の機運を醸成するまでには至らず、その後の新型コロナウイルス禍もあって活動は下火になっていた。

 一方で「日本で唯一新幹線が走らないエリア」の四国は、大きな決断を下した。大阪から徳島、高松、松山を経て大分を結ぶ四国新幹線と、岡山から瀬戸大橋を経由し高知に至る岡山ルートの四国横断新幹線の二つの基本計画路線を抱えるが、23年6月の四国4県知事会議で、岡山ルートへの一本化を決めた。

 「二兎追う者は一兎も得ず」のことわざ通り、二兎を追うより一兎に絞った方が〝獲物〟が得やすいとの判断だろう。

 これに対し、山陰両県の関係者は二兎を追う姿勢を崩していないが、現実は厳しい。北陸新幹線敦賀-新大阪間をはじめ整備新幹線の3路線は全線開通が見通せていない状態。基本計画路線は「その後」という位置付けにあり、「22世紀になってしまう」という声も聞こえる。

 こうした状況を踏まえ、「山陰新幹線を実現する国会議員の会」の石破茂会長(衆院鳥取1区)は、もう一つの選択肢として時速180キロで走る「中速度新幹線」を提唱する。速度は通常のフル規格には及ばないが、既存線路の改良で済み、工期や経費を大幅に抑え、在来線も守ることができるという見立て。一考の余地はあるだろう。

 二兎を追うのか、一兎に絞るのか、石破案に乗るのか-。将来を見据え、明確な誘致戦略を立てなければ、高速鉄道網から完全に取り残されてしまう。