新幹線延伸で北陸経済の底上げを(2024年3月23日『日本経済新聞』-「社説」)

 
 

 


延伸した区間は温泉などの観光資源が豊富だ(16日、石川県加賀市)  =共同

 北陸新幹線が金沢から福井県敦賀に延伸した。北陸全体が首都圏と直通で結ばれ、関西とも時間的に近づく。富山、石川、福井の北陸3県の一体感も強まろう。北陸経済の底上げにつなげ、能登半島地震の復興に生かしたい。

 東京から敦賀まで最速3時間8分、大阪から金沢は新たに乗り継ぎが必要になるが同2時間9分になる。3つの県都は1時間圏内となり、北陸全体で地域経済の自律を考える契機にしたい。

 企業投資はすでに延伸効果がみられる。沿線は水に恵まれ、電子デバイス関連の工場の拡充が相次ぐ。村田製作所は新幹線駅前に研究開発拠点を設けるという。

 延伸した石川県西部から福井県は温泉やズワイガニ永平寺など観光資源も豊かだ。食文化や歴史資産に磨きをかけ、観光産業の生産性を向上させてほしい。

 新幹線は訪日客に人気がある。首都圏や関西から北陸に行きやすくなれば、課題である訪日客の地方分散にも有効だろう。

 高速鉄道は国土構造を変える。関西と縁の深い金沢も北陸新幹線が開業すると、首都圏の観光客が関西を上回った。進学も東京志向が強まっている。延伸はこの傾向を北陸全体に広げ、東京一極集中を促す面があるのは確かだ。

 関西経済界には北陸の関西離れを懸念する声が根強い。日本海側で列島中央部に位置する北陸は、首都圏と関西圏の間でバランスよく人やモノが行き交うことが国土の構造上、望ましいだろう。災害で太平洋側の大動脈がまひした場合の代替も円滑になる。

 れには北陸新幹線の新大阪への延伸を進めることが必要だ。ただ課題は多い。開業は北海道新幹線の札幌延伸やリニア中央新幹線を優先するため、2046年とまだ先になる。2兆円余りという事業費の上振れも必至だろう。

 人口減少下では、都市と地方を巡る人流や物流を盛んにすることで、国土の活力や防災力を維持するという考え方が重要だ。限られた財源を工夫してほしい。