ちょんまげか、ざんばら髪か(2024年3月24日『中国新聞』-「天風録」)

 ちょんまげ姿が先を行き、大銀杏(おおいちょう)とざんばら髪が追う。三者三様で、目にも楽しかった大相撲の賜杯争いに異変である。新入幕で単独トップの尊富士関が黒星を喫し、車いすで土俵を後にした。右足を痛めたらしい

▲思えば13日目、尊富士関は「全身がつった」と明かしていた。連日の真剣勝負で、体中が悲鳴を上げていたのか。辰年(たつどし)らしく昇り竜さながらの鋭い取り口で、胸がすく快進撃だったのに

▲新入幕力士の優勝は、110年ぶりという世紀の金字塔となる。初土俵から所要10場所での制覇は史上最速と、記録ずくめの頂点が懸かっている。好事魔多し、とはこのことだろう

▲思わぬ暗転にため息が漏れた一番の後、逆転を目指した大関の豊昇龍関は力んだのか、優勝争いから脱落。入幕2場所目で、まげの結えぬ大の里関は踏みとどまった。ちょんまげとざんばら髪。相撲好きには願ってもない新星2人の頂上争いである

▲ただ相撲界の行く手を考えれば、上位陣はふがいない。番付を駆け上がる新鋭の「壁」となり、力の差を見せつけるのが務めだろう。きのう朝乃山関は尊富士関に土をつけ、元大関の意地を見せてくれた。心が千々に乱れる千秋楽を迎える。