移民」案は周回遅れ 有本香(2024年3月24日『週刊フジ』)

日本を豊かにするのは外資でも移民でもない 吉村知事の「投資

吉村知事の大阪府大阪市は、政府創設の「金融・資産運用特区」の指定に向けた提案をしている

少し前のことになるが、大阪府の吉村洋文知事が「約1億2000万円の投資をした外国人に永住権付与」などを柱とする、大阪府大阪市の「金融・資産運用特区」の指定に向けた30項目の提案内容を説明した(2月19日)。

同特区は昨年、政府が創設を表明したもの。吉村提案はその具体案というわけだが、海外投資家向けビザの創設のほか、行政手続きなどを英語化するポータルサイトの整備、海外の金融関連企業への法人税減税などが盛り込まれている。

吉村氏は「日本は海外に比べて参入障壁が高すぎる。世界と同じ土俵で戦えるように国へ求める」と言い、世界標準に合わせると言うが、果たしてそうだろうか。

この案を聞いて、真っ先に筆者の頭に浮かんだのは、カナダの事例である。

10年前の2014年、カナダ政府は、それまで28年間にわたって実施してきた「投資移民」と「企業移民」を廃止すると発表した。

当時のカナダでの「投資移民」とは、160万カナダドル(約1億5000万円)以上の資産を持ち、カナダのいずれかの州に80万カナダドル(約7500万円)を無利子で貸し付ければ〝国籍〟が取得できるというものだった。オーストラリアなどの投資移民より経済的負担が少なかったため、中国人富裕層に人気のあったものだ。

しかし、カナダ政府は、この〝人気〟を問題と捉えたのである。制度の利用者の多くが中国系の移民であり、地方によっては中国系移民の急増がさまざまな問題を引き起こしていたためだ。

このとき、カナダ政府は「移民のほとんどがカナダ国内に居住していないなど、カナダ国民としての条件を満たしていない」ことなどを理由に挙げたが、米紙ウォールストリート・ジャーナルなどは「カナダ政府の中国資本追い出し」と喝破した。

カナダは近年、「外国資本追い出し」のさらなる策を講じている。

本コラムでも触れたことがあるが、カナダでは23年、外国人が投資目的で住宅用不動産を購入することを、向こう2年間原則禁止とする新法が施行された。

背景としては、コロナ禍後、住宅価格が高騰し、その原因の1つが、投資目的で住宅を買いあさっている外国人購入者にあると考えられたためだ。

実際はコロナ禍明けに、カナダの不動産価格は下落したという統計があったり、新法施行後も外国人の不動産購入が可能であったりする。つまり、カナダの新法は特定国からの資本流入を警戒した策と読めるのだが、その警戒対象たる資本を、日本が喜んで呼び寄せようというのが吉村提案だ。

ちなみに、筆者が事務総長を務める日本保守党が初陣を構えた東京都江東区の沿岸部には、大金を投じてタワーマンションを購入して移り住む中国人富裕層が目立つ。その売買を仲介する中国系の不動産業者に話を聞けば、「日本は不動産が買いやすく、資産を移しやすい」と言っている。

その結果、東京の新築マンションの平均価格は「億超え」となり、一般的な日本国民の手の届かないものとなっているのが実情だ。

日本政府や吉村知事の発想と策は「周回遅れ」だ。

日本保守党は、こうした周回遅れの移民政策、外資導入に敢然と物申していく。「日本を豊かに、強く」するために必要なのは、外資でもなければ移民でもない、と何度でも強調し訴えていく。

ありもと・かおり

ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

有本香の以読制毒(zakzak)