◆「職探しのハードルが上がった」すでに買い手市場か
中国の交流サイト(SNS)「微信(ウィーチャット)」に、関東周辺で主に中国人のIT人材を仲介するグループがある。仲介会社による人材の売り込みと、IT系企業による人材募集が中国語と日本語で1日数十件飛び交う。人材を募集する側も特定のプログラミング言語など必要とする技術のほか、「日本語流ちょう必須」などと明記するケースが目立つ。
日本で大学卒業後にIT技術者として働く上海出身の男性(27)は「1年前は日本語能力がそれほど求められなかったが、現在は要求が高くなった」と話す。中国人技術者の急増が背景にあると分析し、「中国語や英語だけでできる仕事は少なくなった。すでに売り手市場から買い手市場に変わり、職探しのハードルが上がった」と語る。
厚生労働省が事業者の届け出を集計した「外国人雇用状況」によると、情報通信業で働く中国人労働者は2014年に約1万7000人だったが、23年には2倍以上となった。一方、中国人労働者全体は10年間で約3割増えたが、20年をピークに減少傾向にある。製造業で働く中国人は14年の約10万人から23年は約7万人に減り、中国人労働者はブルーカラーからホワイトカラーに比重が移りつつある。
◆反中国感情が高まる欧米よりは…
上海のIT業界で20年近い経験がある福建省出身の40代男性は、22年5月に国外移住を決意した。上海で新型コロナが広がり、ロックダウン(都市封鎖)が行われていた時期だ。厳格な行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策への反発が広がっていた。「勤めていた会社が大規模なリストラか倒産の瀬戸際にあった。経済全体が急速に悪化し、急いで逃げだすことにした」。つてを頼って就職先を探し、手続きを終えて23年2月に来日した。
日本を選んだのは「距離的、文化的に近いから」。反中感情が高まる欧米を敬遠する中国人は少なくない。いずれ妻と5歳の息子を呼び寄せるつもりだ。
◆日本のIT人材は「79万人不足」の見込み
技術の流出という懸念には「多様な背景の人材から、さまざまな発想を学ぶべきだ。むしろ日本企業が選んでもらえるかということが問題」と指摘する。
◆賃金の魅力薄く、なじめず別の国へ向かうケースも
先の40代男性も「求められる技術レベルは高くない」と話し、技術面で日本から学ぶことが少ないと示唆する。男性の給与は以前より3割近く下がった。中国メディアの記者は「技術者にとって日本で働くことは賃金面での魅力は薄く、日本語の壁は高い」と語る。
この男性は「日本では外国人があまり歓迎されていない」とも。家を借りる際に断られた経験などがある。日本社会になじめず、別の国に向かう中国人は少なくないという。