ドジャース大谷翔平の通訳 水原氏解雇 米メディア大きく伝える(2024年3月22日『NHKニュース』)

大リーグ、ドジャースは、大谷翔平選手の通訳を務める水原一平氏を解雇したことを明らかにしました。アメリカの複数のメディアは水原氏が違法賭博に関与したなどと報じていますが、球団は解雇の理由については明らかにせず、情報を収集しているとしたうえで「現時点ではこれ以上のコメントはない」としています。

米メディアによると、水原氏は、20日夜の試合後にドジャースのチームメートに対して、みずからがギャンブル依存症であるとした上で「すべて自分のせいだ」などと説明したということです。

また、大谷選手は21日夜の試合後に取材対応はせず、チームとともに韓国からロサンゼルスに戻りました。

記事では、ギャンブル依存症についてもお伝えします。

大谷選手の資金「大規模に盗んだ」ロサンゼルス・タイムズ

アメリカの複数のメディアは20日、大谷選手の代理人弁護士が水原氏が違法賭博に関与したと明らかにしたなどと伝え、このうちロサンゼルス・タイムズは、水原氏が連邦捜査の対象となっている違法な「ブックメーカー」と呼ばれる賭け屋で賭けるために、大谷選手の資金を「大規模に盗んだ」としています。

また、アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNによりますと、大谷選手の口座からこのブックメーカーに対して450万ドル、日本円でおよそ6億8000万円が送金されていたということです。

これについて球団はNHKの取材に対して、「報道の内容は把握している」としたうえで、水原氏を解雇したことを明らかにしました。ただ、解雇の理由については明らかにせず、情報を収集しているとしたうえで、「現時点ではこれ以上のコメントはない」としています。

「巨額の窃盗」ニューヨーク・ポスト 

アメリカのメディア各社は水原氏の解雇について、大谷選手と水原氏の写真とともに
「大谷の通訳は窃盗の疑惑で解雇された」とか「ドジャースは賭博の借金返済のための窃盗疑惑で大谷翔平の通訳を解雇した」などと大きく伝えています。

このうちニューヨーク・ポストは「巨額の窃盗」という見出しとともに「大谷の通訳が賭博のためにスターから数百万ドルを盗んだとして解雇された」などと伝えていて
水原氏の解雇はアメリカでも大きな関心を集めていることがうかがえます。

また、ワシントン・ポストも現地時間21日、電子版で「野球界最大のスターに渦巻く驚がくのスキャンダル」と題された記事を配信し、水原氏の解雇や
21日夜、韓国で行われた試合での大谷選手の成績などについて伝えています。

水原氏はエンジェルス時代から大谷選手の専属通訳として、昨シーズンのオフに大谷選手とともにドジャースに移籍しました。韓国のソウルで行われているドジャースの開幕シリーズにも同行して、20日夜の開幕戦もベンチ入りし、試合後の大谷選手の取材対応の際にも通訳していました。21日夜の試合は球場に姿を見せることはなく、すでにチームを離れたものと見られます。

一方、大谷選手は21日夜の試合後、クラブハウスで報道陣の取材には応じず、帰り支度が済むと集まった大勢の報道陣に「お疲れ様です」と声をかけ、午後11時すぎに球場をあとにしました。そしてチームとともにそのままロサンゼルスに向けて出発し、韓国での開幕シリーズを終えました。

今後、ドジャースは日本時間の今月25日から27日にかけてエンジェルスとオープン戦が組まれていて、日本時間の29日からは本拠地での開幕シリーズとしてカーディナルスとの4連戦に臨む予定です。

“大谷選手は巨額の窃盗の被害者” 弁護士事務所

大谷翔平選手のメディア対応を担っている弁護士事務所は、NHKの取材に対し「メディアからの問い合わせに対応していく過程で、大谷選手が巨額の窃盗の被害者であることが明らかになった。今回の件については当局に対応を委ねる」とメールで回答しました。

ドジャース ロバーツ監督 水原氏の解雇“何も答えられない” 

ドジャースのロバーツ監督は午後3時すぎ、試合前の記者会見に臨みました。会見では冒頭から水原氏の解雇について質問が集中し、水原氏が昨夜、チームメートに何を伝えたのかや、どのように解雇が決定されたのか、監督自身に動揺があったかという質問に対してはいずれも「何も答えられない」と回答を控えました。そのうえで大谷選手のプレーに影響があるかどうか問われると、「翔平は試合に向かう準備ができている」と話しました。そして「われわれは野球をするためにここに来ている。きょうもいい結果を残せるようにしたい」と力強く話していました。

ロバーツ監督は、ふだんは記者の質問ににこやかに答える姿が印象的ですが、21日は水原氏に関する質問に対して厳しい表情を崩しませんでした。大谷選手の通訳についてはほかのスタッフがサポートするとしています。

また、ロバーツ監督は15失点を喫して敗れた試合後の会見で、水原氏が解雇されたことがプレーに影響したかという質問に対して「いつもどおりだった。特に中心選手たちはいろいろな経験をしている選手たちだ」と話しました。そのうえで「先発した山本由伸にも影響はなかったと思う。彼らしくない投球だったが、立ち直ってくれる選手だ。難しい試合にはなったが、野手たちはよくやってくれた」として、先発した山本投手をはじめ選手たちを気遣いました。

「大谷選手は現時点で処罰対象ではない」 と関係者 米メディア

アメリカのスポーツ専門サイト、「The Athletic」は大リーグ機構の関係者の話として「大谷選手は現時点で処罰の対象ではない」と伝えています。

大谷選手は21日夜の試合も先発出場するなど、今のところ試合の出場自体に影響はありません。

今後のスケジュールとしては21日夜の試合が終わりしだい、チームとともにロサンゼルスに戻り、25日から27日にかけては古巣のエンジェルスとオープン戦が組まれています。

29日からは本拠地開幕戦となるドジャースタジアムでのカーディナルスとの4連戦に臨む予定になっています。

水原氏「すべて自分のせい」 米メディア 

ESPNは水原氏がギャンブルで多額の借金を抱えていたとも伝えていて、取材に対して、水原氏本人が去年、借金の返済を大谷選手に依頼したと明かしたとしています。

その中で水原氏は「翔平はギャンブルに全く関与していなかったということを知ってほしい。このギャンブルが違法だとは知らなかった」などと話したということです。

また、20日夜の試合後には、水原氏がドジャースのチームメートに対して、みずからがギャンブル依存症であるとした上で「すべて自分のせいだ」などと説明したということです。

米スポーツ専門チャンネル 水原氏のインタビュー取材を詳報

水原氏が違法賭博に関わったとされる問題について、アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNが水原氏へのインタビュー取材をもとに詳しく報じています。

取材のきっかけは、違法とされるブックメーカーに大谷選手の口座から複数の送金があることがわかったことだったということで、ESPNが今週に入り水原氏に取材した際には、「ギャンブルで多額の借金を抱え、その返済を大谷選手に依頼した」などと話しました。

借金は450万ドル、日本円で6億8000万円にのぼったとされ、借金が増えていったいきさつについては「勝ったことは一度もなく、沼にはまって借金がどんどん大きくなり、取り返すためにさらに賭けて負け続けた。もう二度とやらない」と明かしたといいます。

そして「当然、彼はよく思っていなかったが、二度とやらないように私を助けてくれると支払ってくれた。翔平は賭博には一切関与してないことをわかってほしいし、私もこの賭博が違法だとは知らなかった」と話し、当初は大谷選手に相談の上で借金の問題に対処したとしていました。

しかし、その翌日になって大谷選手の代理人事務所の広報担当者がESPNに対して水原氏の発言を撤回したということで、大谷選手の弁護士も「大谷選手が窃盗行為の被害者であるということが発覚した」というコメントを発表しています。

さらに、水原氏も取材に対して「大谷選手は自分のギャンブルや借金、その返済についてなにも知らない」と前日のインタビューの内容を否定し、「これはすべて私の責任で、受け止める準備はできている」と話したということです。

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ギャンブル依存症とは

ギャンブル依存症は、競馬や競輪、パチンコといったギャンブルをやめたくてもやめられない状態に陥り、本人や周りの人たちの生活に支障が生じる精神疾患の1つで、借金をする、仕事や学業を休む、睡眠や食事がおろそかになる、周囲との関係が悪くなるといった特徴があると厚生労働省は位置づけています。

国内でも社会全体で予防を図ることが重要だとして、政府も基本計画を策定して対策に乗り出しています。

それによりますと、依存が疑われる人は成人の2.2%と推計しているということです。

ギャンブルにのめり込むことで、本人や家族の日常生活や社会生活に支障を生じさせるだけでなく、多重債務や犯罪といった重大な社会問題を生じさせる場合があるとして対策が必要だとしています。

ギャンブル依存症は、早期の支援や適切な治療で回復が十分可能だとしていて、政府は、地方自治体や事業者などと連携して必要な取り組みを包括的に講じていくとしています。

専門家 “社会的に成功した人でも依存症のリスク” 

ギャンブル依存症の患者の治療にあたっている大阪精神医療センターの入來晃久医師は、依存症の人に見られる特徴について「基本的には日常生活や人間関係、仕事などに支障が出ているにもかかわらずギャンブルを続けてしまうのが特徴で、人間関係や社会的な地位を失ってしまうことにもつながる。患者は真面目な性格で物事に一生懸命取り組み、能力も高い人が多い気がする。社会的に成功した人であっても本音が言えなかったり、ストレスをため込んでいたりする人はギャンブル依存症のリスクがある」と指摘しました。

その上で対策については「正直に話せる場所や人がいることが非常に大切だ。患者本人は恥ずかしいとか自己責任だとか思ってしまいがちで、自分で何とかしようと考えて治療や支援につながらないことが対策が難しい理由になっている。周りの人も正しい知識を持って偏見をなくすことが大切で、患者を責めたりすることがないようにしてほしい。同じ依存症の人が集まる自助グループに参加したりするのも有効だ」と話していました。

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スポーツ賭博 カリフォルニア州では「違法」

アメリカではおよそ40の州でスポーツ賭博が認められていますが、大谷選手や水原氏が住むカリフォルニア州では違法です。

またアメリカで行われているスポーツ賭博は一般的にブックメーカーに対して掛け金を前払いしますが、アメリカのメディアによりますと今回、水原氏が利用したとされる捜査対象となったブックメーカーは前払いをしなくても賭けることが出来たということです。

大リーグでは所属する選手やスタッフは野球への賭博が全面的に禁止されていますが、そのほかの競技については合法であればスポーツ賭博をすること自体は認められています。

こうした規程については毎年、春のキャンプ期間中に選手会の担当者が各チームのキャンプ地を訪れて詳しく説明することになっていて、ドジャースのキャンプ地でも先月、選手会が主催するミーティングが練習前に開かれルールの徹底が周知されていました。

水原氏はESPNに対してサッカーの国際試合やNBAアメリプロバスケットボールNFLアメリプロフットボールリーグ、それに大学のアメリカンフットボールに賭けたと説明し、今回のブックメーカーが「違法だとは知らなかった」と話したと伝えています。

また、禁止されている野球の賭博については「一切していない」と話しているとしています。

水原一平氏 大谷翔平の大リーグ移籍後 専属通訳務める 

大谷選手の専属通訳を務める水原一平氏は39歳。北海道出身で幼少期にロサンゼルスに移住し、アメリカの大学を卒業しました。2012年からプロ野球の日本ハムで外国人選手の通訳を務め、この年のオフに日本ハム大谷翔平選手が入団しました。

2017年のオフに大谷選手が大リーグのエンジェルスと契約を結んだあとは、水原氏もエンジェルスに移籍して大谷選手の専属通訳となりました。今シーズン、大谷選手がエンジェルスからドジャースに移籍したのに合わせて水原氏もドジャースに移籍しました。

水原氏は大谷選手の通訳業務はもちろん、球場の送り迎えやキャッチボールの相手を務めるなど常に大谷選手と行動をともにしていて、大谷選手からの信頼も厚く、家族同然とも言える関係を築いていました。

大谷選手が初めてシーズンMVP=最優秀選手を受賞した2021年11月には、苦難を乗り越えた時の支えになった人として「お世話になったのは一平さん」と名前を挙げていました。

これまで大谷選手をもっとも近くで支えてきた水原氏が突然、チームを去ることになり、新天地で新たなシーズンをスタートしたばかりの大谷選手への影響も懸念されます。

開幕シリーズが行われているソウルの球場では

大阪から観光に来た女性は「大谷選手との間で信頼関係があったはずなのに、残念だ。きょうも試合があるので、そっとしてあげてほしい」と話していました。

名古屋から旅行で来た家族連れは「大谷選手はプロなのでメンタルは強いと思う。ショックはあるだろうが、そこは関係なくやってくれると思う」と話していました。

20日の試合を球場で観戦したという女性は「朝、ニュースを見て、とてもショックだった」と話していました。

21日夜の試合で大谷選手を応援するためプサン(釜山)から来た韓国人大学生は「残念だが、大谷選手はそういうことに流されずにやっていける選手だと思う。引き続き応援していきたい」と話していました。

韓国のファンクラブ会長「開幕戦前に水原氏と面会」 

400人以上の会員を抱える大谷選手ファンクラブのイ・ジェイク会長によりますと、開幕戦前日の今月19日の午後、選手たちが宿泊していたソウル市内のホテルのロビーで水原氏を見かけて声をかけ、短時間言葉を交わしたということです。

この際、イ会長は自身が著者となって出版した大谷選手に関する本を手渡して大谷選手本人に渡してほしいと依頼し、水原氏は「私が渡しておく」と言って本を受け取ったということです。

水原氏はイ会長との写真撮影にも応じたということですが、イ会長は「表情がとても暗くてどうしてだろうと心配した。彼が大谷選手のファンと写真におさまることが、今後もうないかと思うと胸が痛い」と話していました。