「自ら穴を掘り、その穴はどんどん大きくなっていった。そこから抜け出すためにはもっと大きな額を賭けなければならず、負け続けた。雪だるま式に」――。大谷翔平選手(29)が所属する米大リーグ・ドジャースから解雇された通訳の水原一平氏(39)は、米スポーツ専門局ESPNの取材に、スポーツ賭博にのめり込んでいった実態を告白していた。
米国40州で合法化
米国では従来、スポーツ賭博は西部ネバダ州のラスベガスでしか認められていなかった。しかし、連邦最高裁が2018年に合法性の解釈を各州に委ねると判断。ドジャースが本拠地を置く西部カリフォルニア州では違法だが、米メディアによると、現在では全米50州のうち40州近くで合法化されている。米ゴールドマン・サックスの報告によると、最高裁の判断を受けて米国のスポーツ賭博の市場規模は100億ドル(約1兆5000億円)に急成長。今後450億ドル規模に拡大すると予測されている。
急速な普及に伴い、若い世代を中心に社会問題になっているのがスポーツ賭博への依存だ。米CBSテレビによると、東部ニュージャージー州では18年に合法化されてからの5年間で、州のギャンブル依存症の相談窓口への問い合わせは3倍近くに増加した。問い合わせが最も多い層は25~34歳だという。学生ローンで借りた学費用の資金を使い果たしてしまったという事例も報告されている。
米国ではテレビ中継などの際にスポーツ賭博の広告が頻繁に流れる。オンラインのスポーツ賭博への入会時に「ボーナス」として賭け金に使えるポイントを付与するという巧妙な誘い文句もあり、手軽に始められる。東部ニューヨーク州にあるシエナ大学が今年2月に発表した調査によると、米国では18~49歳の男性の39%、同年代の女性の20%がオンラインのスポーツ賭博のアカウントを持っていると回答。全体の15%がオンラインのスポーツ賭博をめぐって何らかの問題を抱える人を知っていると答えた。
「野球に賭けたことはない」
米大リーグ機構(MLB)の規約では、選手や審判、球団関係者は野球以外のスポーツの賭博への参加は認められているが、違法賭博への参加は処罰の対象になる。水原氏については、捜査当局が違法性を調べていたブックメーカー(賭け屋)との関係が浮上していた。ESPNに対し、水原氏は海外サッカーや米プロバスケットボールNBA、米フットボールNFLなどに賭けていたと説明し、「野球に賭けたことはない。100%ない。そのルールは知っていた」「違法だとは知らなかった」と語ったという。
「私はギャンブル依存症だ」。米FOXスポーツの野球アナリストで、大谷選手のファンとしても知られるベン・バーランダー氏は、ドジャース広報担当者の話として、水原氏が20日の開幕戦終了後に選手控室でそう告白し、問題が記事化されることを報告したとX(ツイッター)に投稿した。
21年ごろから賭博を始め、翌年の終わりには100万ドル(1億5000万円)近く負け込んでいたと説明したという水原氏は、ESPNの取材にこうも語っていた。「私はギャンブルがひどく下手だ。二度とやらない。一度も勝ったことがない」【ニューヨーク八田浩輔】