「金利ある世界」と財政 もう借金頼みは通じない(2024年3月22日『毎日新聞』-「社説」)

植田和男・日銀総裁(左)との会談に臨む岸田文雄首相=首相官邸で2023年4月10日、竹内幹撮影

植田和男日銀総裁(左)との会談に臨む岸田文雄首相=首相官邸で2023年4月10日、竹内幹撮影

 10年以上に及んだ異次元の金融緩和に頼り切って、政府は借金まみれの放漫財政を続けた。日銀がマイナス金利政策を解除したのを機に、将来につけを回してきたアベノミクス路線を転換すべきだ。

 政府はこれまで超低金利を利用して国債を大量発行し、大型予算を編成してきた。国と地方の債務残高は2024年度に1300兆円を突破し、異次元緩和の前より約400兆円も増える見通しだ。

 とりわけ問題なのは、コロナ禍が一段落したことを受け「財政を平時に戻す」と表明したはずの岸田文雄首相がいまだに大盤振る舞いをやめていないことだ。景気刺激効果が疑問視される所得減税を打ち出し、借金漬けを深刻にした。

 金利が上昇すれば、国の負担も膨れ上がる恐れがある。財務省の試算では、金利が想定より2%上振れると、国債の元利払い費は27年度に41兆円を超え、今より16兆円も増える。

 借金膨張に歯止めが掛からなければ、国の信用が低下し、円が急落しかねない。物価高が加速して国民生活をさらに苦しくする。

 25年には団塊の世代が全員75歳以上になり、社会保障費が大幅に増える。巨額の借金を抱えたままでは乗り切れない。能登半島地震のような大きな自然災害に備えた財政余力の確保も求められる。

 緩みきった財政規律を立て直すことが急務だ。

 まず政府が目標としている「基礎的財政収支」の25年度黒字化を達成する必要がある。社会保障や公共事業など毎年度の事業の収支を示す指標だ。政府は昨年、多額の補正予算を決定した。ばらまきにしか見えない対応を繰り返せば、黒字化は極めて困難になる。

 たとえ目標を達成したとしても、健全化には不十分である。基礎的財政収支には国債の元利払い費が含まれていないためだ。

 26年度以降の新たな目標の策定に向け、政府・与党の議論が今後本格化する。金利復活に見合った内容にしなければならない。

 首相は、賃金と物価がともに上昇する「経済の好循環」を目指している。景気が良くなれば、金利も上がるのが自然な姿である。

 ならば、「金利のある世界」を見据えた財政政策に変革していくことが欠かせないはずだ。