介護保険制度維持への危機感(2024年3月21日『東奥日報』-「天地人」)

 50代半ばになり、学生時代に読んだ文庫本の字が小さくて読みにくくなった。人生後半戦。下り坂にさしかかっている、と感じる。

 下り坂と言えば、著書「おひとりさまの老後」を17年前に発表し話題を呼んだ社会学者・上野千鶴子さんの言葉を思い出す。「上りよりも下り坂の方が、技術が必要」。昨年11月、青森市で行われた講演会で語っていた。仕事や人付き合いの「やめどき」、財産の整理などを上手に判断し、機嫌よく人生の後半を過ごすことが大切だという。

 

 そのおひとりさまの星・上野さんがにじませるのが介護保険制度維持への危機感。2000年にスタートした介護保険は、65歳以上の平均保険料が当初より2倍以上に増えた。その一方でサービスが縮小傾向。24年度の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬が下げられた。経営難の訪問介護事業所の撤退が続き、在宅サービスを受けられない「介護難民」が出るのでは-と指摘される。

 上野さんが代表を務める団体は2月、訪問介護の報酬減に抗議し、撤回を求める緊急声明を発表した。著書「在宅ひとり死のススメ」では「在宅ひとり死ができるようになったのは介護保険のおかげ。この制度を決して後退させてはならない」と記している。

 機嫌よく坂道を下りるためには、国に言うべきことははっきりと言う。それが大事。上野さんの凛とした姿を見てそう思う。