訪問介護の報酬減額 在宅ケアの崩壊招きかねぬ(2024年2月27日『河北新報』-「社説」)

 住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続ける。厚生労働省が掲げる「地域包括ケア」のこの理念と相反するのではないか。日々奮闘する訪問介護員ホームヘルパー)の誇りも傷つけるものだ。

 介護事業所に支払う介護報酬の2024年度からの改定内容が決まった。理解に苦しむのが、施設系サービスの基本報酬を増額しながら、訪問介護サービスは基本報酬を引き下げたことだ。

 経営基盤の弱い中小を中心に訪問介護事業所が経営難に陥る恐れがある。現場からは「在宅介護の終わりの始まり」などと抗議の声が上がり、民間団体やヘルパーらが減額方針の撤廃を求めている。

 厚労省は減額の理由に、事前の経営実態調査で訪問介護事業所の平均利益率が7・8%と良好だったことを挙げる。今回改定でヘルパーの処遇改善に取り組んだ事業所は報酬の加算率が最大24・5%に拡充されるため、経営の打撃にならないとも強調する。

 利益率は実態を反映していないとの指摘がある。都市部でサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などの入居者を短時間に効率よく訪問できる事業所は高くなる。一方で、地方の広い範囲を一軒一軒、時間をかけて巡回する事業者は経営環境が厳しい。東京商工リサーチによると、23年の訪問介護事業者の倒産は67件と過去最多を更新している。

 処遇改善の加算でも、高い加算率を得るための要件を満たすのは、経営の苦しい小規模事業者ほど簡単ではないだろう。加算とともに、基本料の引き上げがなければ経営は安定せず、中小事業所の切り捨てにつながりかねない。

 介護現場は著しい人手不足に直面し続けている。介護職員の平均賃金は全産業平均より月額約7万円低い。22年には新たに職に就く人より辞める人の方が多くなり、約6万人の「離職超過」に陥った。

 特に訪問介護は深刻だ。ヘルパーの22年度の有効求人倍率は15・53倍に上る。平均年齢は54・7歳で、65歳以上が4分の1を占める。事業所の経営が厳しくなれば、担い手不足に拍車がかかろう。

 今回の改定では介護職員の賃金底上げに重点を置き、24年度に2・5%、25年度に2・0%のベースアップを目指す。だが今春闘で、連合は5%以上の賃上げ目標を示し、格差は縮まりそうにない。

 来年は「団塊の世代」が全員、75歳以上となり、医療や介護の需要の急増が予想されている。「2025年問題」と呼ばれ、在宅ケアの重要性が増す。訪問介護はその土台だ。地域から事業所撤退が相次げば、「介護難民」が増えてしまうだろう。

 介護報酬の引き上げは、利用者負担や保険料にはね返る。訪問サービスの減額といった小手先の対応ではなく、超高齢化社会介護保険を持続可能な制度とするための根本的な論議が必要だ。