宿泊税論議 制度の根幹練り直しを(2024年3月21日『北海道新聞』-「社説」)

 ホテルや旅館の宿泊客から徴収する「宿泊税」導入に向けた道の検討作業が迷走している。
 19日に閉会した第1回定例道議会では与野党から「受益と負担の観点から疑問がある」などと、数々の指摘が出された。
 鈴木直道知事は答弁で、宿泊税を検討してきた有識者懇談会について「制度の骨格部分についてはおおむね了承を得た」と答弁したが、認識が甘いのではないか。
 先月の懇談会は税収の見込みを60億円から45億円へ下げたことを巡り、道の手厚い施策を期待する旅館・ホテル業界が反発して紛糾した。一方、消費者団体は低額の宿泊は免税とするよう求めた。
 関係者の間で税額すら一致できておらず、道議会の議論も収斂(しゅうれん)していない。制度設計の根幹に問題があると指摘せざるを得ない。
 宿泊税は自治体が条例によって導入できる法定外目的税だ。道は税収のほぼ全額を基金に繰り入れて観光施策に充当するほか、うち一部を積み立てて、緊急時の「旅行割」実施などに備える方針だ。
 問題なのは、税の負担者と受益者に大きなずれがあることだ。
 道の宿泊者アンケートによると、約25%が出張など仕事での宿泊だった。帰省や通院、介護などの「その他」と合わせると、3割強が観光目的以外だった。
 受益がない人にまで負担を強いるのは目的税にそぐわない。
 東京都や大阪府はビジネス客などを念頭にそれぞれ1万円未満、7千円未満の宿泊を免税としている。道も検討すべきだろう。
 道民を含む一般客に十分な受益があるのかも疑問だ。
 道は45億円の税収のうち、17億円程度を欧米豪で人気の体験型観光「アドベンチャートラベル」のガイド育成など、観光の高付加価値化のために支出するという。
 裾野が広い観光の振興は重要だ。ただ客単価が高い外国人富裕層ばかりに目を向け、低価格帯の一般客や、それを受け入れる施設を置き去りにしてはいないか。
 観光関連の目的税は、自治体の行政サービスを享受する観光客にも、その経費を負担してもらおうと導入が始まった経緯がある。
 観光地に客が集中するオーバーツーリズム(観光公害)の緩和など、改善を実感できなければ税負担への理解は得られまい。
 道の設計では観光公害対策は主に市町村の役割だ。独自に宿泊税導入を目指す市町村も相次ぐ。二重課税ともなるが、過重な負担とならないかの検討も不十分だ。