「パープルダンサーズ321 ブドウの実みたいに多様な個性 尊重し合える社会へ 願い込めダンス(2024年3月21日『東京新聞』)

 
 障害の有無に関係なく多様な個性を尊重し合える「インクルーシブ」な社会へ-。そんな願いを込めたダンス動画を作るプロジェクトが進んでいる。出演者はダウン症があったり、障害があるきょうだいがいたりと、多様な背景を持つ4人の子どもたち。動画は「世界ダウン症の日」の21日、ユーチューブで公開される。
動画撮影しながらダンスの練習をするメンバーたち=新宿区で

動画撮影しながらダンスの練習をするメンバーたち=新宿区で

 2月下旬、東京都新宿区内のスタジオに楽しそうな声が響いた。「パープルダンサーズ321」のメンバー4人は楽曲「ブドウの実」に合わせて手足を伸ばし、胸を張り、指先まで使いながら体を動かす。分からない時は教え合い、「楽しい」「みんなキレキレでかっこいいね」と笑顔が広がった。
 「ブドウの実」は形の異なる実が集まって房となるブドウのように、社会も多様な個性で成り立つという思いが込められた曲だ。
 メンバーの一人、AOIさん(17)にはダウン症がある。途中、動画に合わせて練習したAOIさんのダンスが、左右反転していたことが発覚。皆で「もう一人も反転しよう」「配置を変えよう」とアイデアを出し合った。
昨年の「バディウォーク」の参加者たち。マイクを握るのは井田美保さん=SUPLIFE提供

昨年の「バディウォーク」の参加者たち。マイクを握るのは井田美保さん=SUPLIFE提供

 「皆温かくて、アットホーム。これが社会だったらいいのにと思うほど」と語るのは井田美保さん(49)。今回の「ブドウの実ダンスプロジェクト」を企画したNPO法人「SUPLIFE」(豊島区)の代表だ。子どもたちは1月から練習を重ねており、ダンスは動画のほか、4月に行われるチャリティーイベントでも披露する。
 井田さんは「子どもたちにインクルーシブを知ってもらいたかった」とプロジェクトへの思いを語る。ダウン症がある次女を育て、障害者と健常者を分断する社会の在り方に疑問を抱いてきた。インクルーシブを経験していれば、「たとえ障害者を怖いと思っても、自分が知らないからだと気づける。相手を知ろうとする思いにつなげられる」。
 この日の練習後、メンバーのゆうせいさん(11)は「ダウン症の人は話したり、動いたりすることが大変だとネットで読んだけど、AOI君はそうした壁を破っていてすごい。実際に会ってみないと分からない」。隣で聞いていたAOIさんは「いいこと言うね!」とうなずき、「みんなで話し合って、考えて練習してる。生きてる感じがする」と話した。
 メンバーの一人一人が大切な果実だ。HIMARIさん(10)は「みんな違って、みんないい。本番ではそれを出し切りたい」、LunAさん(11)は「私は身長が低いけど、踊れるよ。できることがあるよ。世界のみんなに知ってもらいたい」と話す。
 ダンスを披露するイベント「バディウォーク東京for all」は4月27日午後1時から、豊島区の池袋西口公園で。入場無料。各種ステージや縁日などがある。

◆パープルダンサーズ321

2番手前列左からHIMARIさん、LunAさん、後列左から優誠さん、AOIさん

2番手前列左からHIMARIさん、LunAさん、後列左から優誠さん、AOIさん

●AOI(吉田葵)  17歳。ダウン症がある。俳優で、映画「PERFECT DAYS」やテレビドラマに出演。プロジェクトでジャズファンクダンスに初挑戦する。今年の世界ダウン症の日にニューヨークでスピーチする。
●ゆうせい(鈴木優誠) 11歳。ダンスと生きものが大好きで、海辺に住んでいる。学校で社会の多様性を勉強したことをきっかけに手話を学ぶ。ろう者以外の障害者のことも知りたいと思っている。
● LunA(渡辺瑠月(るな)) 11歳。121センチの低身長を生かし、「見ている人の心へ残るダンス」を目指す。自身のインスタグラムも人気で、母から教えられた「障害のあるなしに関係なく、共に生きる」を大切にしている。
●HIMARI(井田ひまり) 10歳。ダウン症のある妹のいる「きょうだい児」。妹が小学校に入学した時、愛読書でもあるダウン症の啓発絵本をクラスで朗読した。通常級に通う妹をそっと見守っている。 

◆世界ダウン症の日配信開始!

 動画はこちらから

<世界ダウン症の日> ダウン症の人の多くは21番染色体が3本あることから、国連が2012年に3月21日を啓発の日として定めた。毎年、世界中で啓発イベントが開かれている。

 文・中村真暁/写真・安江実
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