2月下旬、東京都新宿区内のスタジオに楽しそうな声が響いた。「パープルダンサーズ321」のメンバー4人は楽曲「ブドウの実」に合わせて手足を伸ばし、胸を張り、指先まで使いながら体を動かす。分からない時は教え合い、「楽しい」「みんなキレキレでかっこいいね」と笑顔が広がった。
「ブドウの実」は形の異なる実が集まって房となるブドウのように、社会も多様な個性で成り立つという思いが込められた曲だ。
メンバーの一人、AOIさん(17)にはダウン症がある。途中、動画に合わせて練習したAOIさんのダンスが、左右反転していたことが発覚。皆で「もう一人も反転しよう」「配置を変えよう」とアイデアを出し合った。
昨年の「バディウォーク」の参加者たち。マイクを握るのは井田美保さん=SUPLIFE提供
「皆温かくて、アットホーム。これが社会だったらいいのにと思うほど」と語るのは井田美保さん(49)。今回の「ブドウの実ダンスプロジェクト」を企画したNPO法人「SUPLIFE」(豊島区)の代表だ。子どもたちは1月から練習を重ねており、ダンスは動画のほか、4月に行われるチャリティーイベントでも披露する。
井田さんは「子どもたちにインクルーシブを知ってもらいたかった」とプロジェクトへの思いを語る。ダウン症がある次女を育て、障害者と健常者を分断する社会の在り方に疑問を抱いてきた。インクルーシブを経験していれば、「たとえ障害者を怖いと思っても、自分が知らないからだと気づける。相手を知ろうとする思いにつなげられる」。
この日の練習後、メンバーのゆうせいさん(11)は「ダウン症の人は話したり、動いたりすることが大変だとネットで読んだけど、AOI君はそうした壁を破っていてすごい。実際に会ってみないと分からない」。隣で聞いていたAOIさんは「いいこと言うね!」とうなずき、「みんなで話し合って、考えて練習してる。生きてる感じがする」と話した。
メンバーの一人一人が大切な果実だ。HIMARIさん(10)は「みんな違って、みんないい。本番ではそれを出し切りたい」、LunAさん(11)は「私は身長が低いけど、踊れるよ。できることがあるよ。世界のみんなに知ってもらいたい」と話す。
◆パープルダンサーズ321
●AOI(吉田葵) 17歳。ダウン症がある。俳優で、映画「PERFECT DAYS」やテレビドラマに出演。プロジェクトでジャズファンクダンスに初挑戦する。今年の世界ダウン症の日にニューヨークでスピーチする。
●ゆうせい(鈴木優誠) 11歳。ダンスと生きものが大好きで、海辺に住んでいる。学校で社会の多様性を勉強したことをきっかけに手話を学ぶ。ろう者以外の障害者のことも知りたいと思っている。
● LunA(渡辺瑠月(るな)) 11歳。121センチの低身長を生かし、「見ている人の心へ残るダンス」を目指す。自身のインスタグラムも人気で、母から教えられた「障害のあるなしに関係なく、共に生きる」を大切にしている。
◆世界ダウン症の日配信開始!
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文・中村真暁/写真・安江実
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