「ダウン症でも、やりたいことはできる」俳優として活躍する・吉田葵さん 3月21日、世界に向けスピーチ(2024年3月16日『東京新聞』)

 
 世界ダウン症の日の21日、ダウン症のある東京都の吉田葵(あおい)さん(17)が、米ニューヨークの国連本部などで開かれる世界ダウン症連合の会合でスピーチする。周囲に支えられながら得意なことを伸ばし、俳優としても活躍している。「世界中のダウン症の人に、緊張しても、恥ずかしくても、やりたいことはできると伝えたい」という思いは強い。(中村真暁)

 世界ダウン症の日 ダウン症の人の多くが21番染色体が3本あることから、国連が2012年に3月21日を啓発の日に定めた。英ロンドンに本部がある世界ダウン症連合が呼びかけ、世界中で啓発イベントが開かれる。日本ダウン症協会によると、世界ダウン症の日の会議でこれまでにスピーチをしたダウン症のある日本人は、書家の金澤翔子さんらがいる。

役所広司さん主演アカデミー賞映画にも出演

スピーチに向け、意気込みを話す吉田葵さん(左)と母佐知子さん=東京都内で

スピーチに向け、意気込みを話す吉田葵さん(左)と母佐知子さん=東京都内で

 葵さんは、都立特別支援学校の高等部2年生。モダンバレエや合唱団の指揮に打ち込んできた。2022年には、役所広司さん主演で米アカデミー賞にノミネートされた公開中の映画「PERFECT DAYS」に出演したほか、23年のNHKBSプレミアムドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」では主人公の弟役に抜てきされた。
 葵さんが自身のダウン症を知ったのは、小学5年で特別支援学級に通っていたころ。運動会の徒競走でどんなに頑張っても1番を取れず、母親の佐知子さん(53)に「なんで」と問いかけた。
 「ダウン症があるから筋力が弱く、猛スピードでは走れないんだよ」と佐知子さん。こう続けた。「人には得意、不得意がある。葵はバレエも指揮もできる。そっちを頑張ったらいいんじゃない?」。葵さんは落ち込む様子もなく「そうだね」と納得した様子だったという。

◆「諦めず情熱を持ち続ければできる」

スピーチに向け、意気込みを話す吉田葵さん

スピーチに向け、意気込みを話す吉田葵さん

 ドラマ出演は、周囲に誘われてオーディションに参加したことがきっかけだった。せりふの暗記や話しながらの演技など、初めてのことだらけ。目から入る情報を処理しやすい「視覚優位」の特性があり、演技方法などは箇条書きにしてもらって頭に入れた。自宅や空き時間も練習し、佐知子さんは「諦めず頑張り続ける姿に、自分だったらできるだろうかと何度も思った」と振り返る。
 スピーチは英語と日本語で、日本で活動する俳優・タレントのジェイソン・ハンコックさんと共に、会議のテーマ「健康の公平性」について語る。心臓に持病があり体調を崩すことも多いが、ドラマの撮影では体調管理に気を配り、風邪一つひかなかった。「僕にぴったりのテーマ」と胸を張る。
 会合はこれまで国連本部で開かれてきたが、今年は葵さんが登壇する21日だけ、運営側の事情で別会場となる。でも、夢の舞台に胸を躍らせる。「会場にはダウン症の人が世界中からやって来る。友達になりたい。パーティーをしたい。みんなの笑顔が見たいから」