自民党、止まった世代交代の針 長期低迷の入り口か(2024年3月18日『日本経済新聞』)

 
 

 


自民党大会の最後に壇上に並ぶ岸田首相ら(17日、東京都港区)

戦後、政権与党の座を維持してきた自民党もついに長い低迷のトンネルに入ったのか。そんなことを感じざるを得ない自民党大会だった。

現職の国会議員3人が起訴されるという前代未聞の不祥事が表面化してから、4カ月近く。党大会はこれにけじめをつけ、次の一歩に進むための絶好の舞台となるはずだった。

演説に臨んだ岸田文雄首相(党総裁)は「幹事長に結論を得るよう指示をした」と述べるにとどめた。2月末の衆院政治倫理審査会で「処分をはじめとする政治責任を判断していく」と言及していただけに、対応の遅さをかえって印象づけた。

不安を感じたのは党執行部の機能不全ぶりだけではない。この間、世論から批判を浴び続けているにもかかわらず党を変革しようというダイナミズムが生まれなかったことだ。

当選回数の少ない議員から聞こえてきたのは「ここで執行部を突き上げればキャリアの傷になる」「自分たちを守ってくれる派閥もなくなった」という声だ。

1955年に結党した自民党がモメンタムを失いかけたことは数度あった。93年と2009年は政権そのものを明け渡したが、その都度、次のリーダーや世代が自民党をつくりかえた。

三角大福中」や「麻垣康三」といった次の総裁候補を示す造語が生まれ、党内で「疑似政権交代」を通じて活力を維持してきた。


自民党大会に出席した森元首相(17日、東京都港区)

いま「ポスト岸田」を示す造語は見当たらない。それどころか岸田政権では20年以上前に首相を務めた森喜朗氏が最大派閥・安倍派の「5人衆」を束ね、麻生太郎元首相が副総裁として党をとりしきる。世代交代を促す時計の針はぴたり止まったままだ。

かつて小泉純一郎政権時に自民党衆院比例代表に73歳定年制を導入した際、当時85歳だった中曽根康弘元首相への適用が問題になったことがあった。

幹事長だった安倍晋三氏が恐る恐る中曽根氏を訪ねると、中曽根氏は衆院比例北関東の終身1位を約束されていた文書を示し「どういう理由でほごにするんだ」と迫ったという。それでも「君も貧乏くじを引いたな」と承諾したことに安倍氏は生前、感謝を絶やさなかった。

いまの自民党に改革のエネルギーがあるのか。問われているのは首相や執行部だけではない。(重田俊介)