衆院補選告示まで1カ月 島根1区に注目集まる(2024年3月16日『山陰中央新報』-「論説」)

 

 果たして有権者の関心はどれほど高まるだろうか。

 細田博之衆院議長の死去に伴う衆院島根1区補欠選挙(4月16日告示、28日投開票)の告示まで1カ月となった。

 補選には、自民党新人で元中国財務局長の錦織功政氏(54)、立憲民主党元職で党県連代表の亀井亜紀子氏(58)、共産党新人で党県委員会副委員長の村穂江利子氏(55)、無所属新人で社会福祉法人理事長の佐々木信夫氏(85)が立候補を予定している。

 自民にとっては細田氏の「弔い選挙」となる。ところが、その細田氏が会長も務めた清和政策研究会(安倍派)を中心とする「政治とカネ」の問題で世論の批判を真正面から受ける形になっており、島根1区の有権者がどのような審判を下すのかに、全国の注目が集まっている。

 その半面で気がかりなのが有権者の関心。一般的に補選は本選挙より注目が集まりにくく、投票率も低くなりがちだ。

 象徴的だったのが昨年10月22日に投開票された参院徳島・高知選挙区。参院の「1票の格差是正」を目的に隣接県を一つに統合する合区選挙区で、与野党一騎打ちの構図になったが、全体の投票率は32・16%と低調。県別では両候補が地盤とした高知が40・75%だったのに対し、徳島は23・92%とさらに低迷した。有権者の4人に1人も投票していない数字だ。

 この傾向は参院に限らない。2020年以降、7選挙区で行われた衆院補選の投票率はいずれも50%割れ。安倍晋三元首相の死去に伴い、23年4月に行われた山口4区は34・71%にとどまり、直前の本選挙と比べて13・93ポイントもダウンした。

 選挙区ごとに事情は異なるだろうが、共通する要因は政治不信、具体的には岸田政権に対する不信感ではないか。

 象徴的なのがエネルギー政策の転換だ。ウクライナ危機によるエネルギー資源の調達環境の悪化を背景に、次世代型原発への建て替えや運転期間60年超への延長を盛り込んだ、脱炭素化に向けた基本方針を閣議決定。11年の東京電力福島第1原発事故以降、原発の新増設や建て替えは「想定しない」としてきた姿勢から一転「原発回帰」へと大きくかじを切った。

 問題は進め方だ。首相は22年7月の参院選で全くそぶりを見せず、脱炭素社会の実現を議論する翌月の有識者会議で突然表明。国会で議論する前に政府与党で決めてしまった。これでは有権者が「選挙に行っても意味がない」と思っても仕方ない。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で不信感は増幅したが、だからといって、政治を諦めてしまっては、われわれの暮らしは何も変わらない。

 島根1区と同じ日程で長崎3区、東京15区の補選もある。

 長崎3区は裏金事件で略式命令を受けた谷川弥一前議員=自民離党=の辞職に伴う。長崎は衆院小選挙区定数「10増10減」で定数4から3に減員するため自民党は候補者選びが難航し、独自候補を擁立せず、不戦敗とする方向という。江東区長選を巡り公選法違反罪で起訴された柿沢未途被告=自民離党=の議員辞職による東京15区も、自民は候補者を未定としている。

 自民が議席死守を目指す島根1区での有権者の選択は、より注目を集めることになる。