衆院3補選、自民支持層の崩れあらわ 立民3勝に共産寄与(2024年4月29日『日本経済新聞』)

 
衆院島根1区補欠選挙の敗戦を受けて、取材に応じる自民党の茂木幹事長(右)=28日、党本部
 

与野党は28日投開票の衆院3補欠選挙を受けて次期衆院選へ戦略の練り直しに入る。不戦敗も含め全敗した自民党は野党に流れた支持層のつなぎとめが急務になる。立憲民主党の3勝は共産党の支援が寄与した側面があり、その流れを強めるかどうかの判断が必要になる。

今回の衆院3補選は自民派閥の政治資金問題を巡る事件後初めての国政選挙だった。政権批判票の受け皿となるのがどの党か、自民支持層がどんな投票行動をとるのかが注目された。自民は大型連休明けに選対幹部が集まって敗因を分析する。

 
共同通信出口調査からわかるのは自民支持層が自民から離れた実態だ。「保守王国」と呼ばれた島根1区は自民支持層の26%が当選した亀井亜紀子氏に投票した。公明党支持層の3割は自民に入れなかった。

自民候補がいない2補選では同党支持層の票を取り合う展開になった。時事通信出口調査によると、9人が出馬した東京15区で日本維新の会の金沢結衣氏、諸派の飯山陽氏、無所属の乙武洋匡氏にそれぞれ2割前後が流れた。

共同によると東京15区や島根1区で投票に際して政治資金問題を「大いに重視した」「ある程度重視した」の合計がそれぞれ7割超になった。自民幹部は「大きな政治不信があると考えざるを得ない」と語る。

3補選で全勝した立民も手放しで喜べる状況とはいえない。3つの選挙区の投票率はいずれも過去最低で、政治不信を払拭する受け皿としての期待を感じさせるほどの勢いはない。

立民は各選挙区で共産の支援を受け、共産は東京で独自候補を取り下げた。今回は奏功したものの、この手法を次期衆院選でも踏襲するかはまだ不透明だ。立民の泉健太代表は共産との選挙協力を巡って方針が揺れた経緯がある。

今回は推薦より協力の度合いが低い支援にとどめ、共産と連携を深めることへの批判をかわした。共産が半数ほどの選挙区で候補者の擁立を見送り、間接的に旧民主党の政権獲得に寄与する形となった2009年衆院選の構図と似る。

共産の小池晃書記局長は28日、立民の3勝について「共闘が大きな要因になったことは間違いない」と記者団に述べた。

立民内には「共産に前面に出られると迷惑だ。支援はあくまで静かにやってほしい」との声もある。共産との連携に旧民主を源流とする国民民主党や、支援組織の連合が反発しているためだ。21年衆院選のように「立憲共産党」と批判されるリスクもはらむ。

立民は国民民主と原発政策や安全保障政策などで溝がある。東京15区でも共産支援を理由に国民民主からの推薦を得られなかった。連合は両党が支える候補者が分裂するときは自主投票にしてきた。

維新は立民との候補者調整に後ろ向きで、競合すれば共倒れの可能性もある。

次期衆院選の目標に野党第1党を掲げ、全国政党をめざす維新にとっては課題の残る補選になった。東京15区では3位にとどまり、長崎3区では一騎打ちとなった立民にダブルスコアで敗れた。

馬場伸幸代表は「まだまだ関西以外の小選挙区で勝つのは非常に厳しい」と分析した。長崎は県内に所属地方議員がおらず、組織の層の薄さも浮き彫りになった。

東京15区補選の結果は東京都の小池百合子知事の動向にも関わる。

支援した乙武氏が大差で敗れ、小池氏の影響力の低さを示す結果となった。小池氏は21日投開票の目黒区長選で支援した候補が敗れたばかりだ。7月の都知事選や、取り沙汰される国政復帰の行方にも影響する。