ボディタッチ、チップ口移し
昨年11月、自民党の和歌山県連が主催し、青年局幹部の国会議員や近畿ブロックの若手地方議員らが参加した「青年局近畿ブロック会議」。その懇親会で、過激な衣装のダンサーらが余興で招かれ、参加者の一部がダンサーの身体に触れたり、チップを口移しで渡したりしていたことがわかり、問題視されている。余興を企画した和歌山県議の弁明が話題になっているが、そもそもこのタイミングでこの種の話が出てきた背景に何があるのか。
そこにはドロドロした権力争いがあるようなのだ――。
「去年11月に和歌山市内で開かれた会合には、自民党青年局長の藤原崇衆院議員や局長代理の中曽根康隆衆院議員ら青年局幹部の国会議員や近畿ブロックの若手の地方議員ら40名弱が参加していました。露出多めの女性ダンサー5人が入場し、参加者が彼女らにボディタッチしたり、チップを口移しで渡したりということもあったということでした」と、政治部デスク。今年3月8日になってこの件が報じられ、藤原氏と中曽根氏は役職を辞任した。
エッフェル姉さん、赤ベンツ不倫
「企画を担当した川畑哲哉和歌山県議は、懇親会の企画趣旨について、“新感覚のおもてなし”などと説明していたようです。ダンサーを招いたことについては、“多様性の重要性を問題提起しようと思った”と弁明しましたが、その後に自民党を離党しました」(同)
川畑県議の珍妙な釈明もさることながら、藤原氏が記者団から「ダンサーに触っていたら議員辞職するのか?」と詰められるシーンが繰り返しメディアで流さるなどして、自民党全体の緩みや危機感のなさを指摘する声が大きくなっている。
「少し前には藤原氏と同じ岩手県を地元とする広瀬めぐみ参院議員が臨時国会の最中に『赤ベンツ不倫』を楽しんでいたことが報じられました。この懇親会が開かれた数カ月前には、“エッフェル姉さん”なる言葉も生まれた、自民党女性局メンバーらによるフランス研修旅行が問題視されていました」(同)
世間の厳しい目を考えれば、軽率のそしりをまぬかれないというわけだ。
リークした犯人捜し
ところで、今回の一件が露見するに至った背景とはどういったものなのか。
「関係者の間では、この件をリークした犯人捜しは既に済んでいるようです。狙われたのは和歌山選出の世耕弘成前自民党参院幹事長の一派だと言われています。総選挙が今年中にもありそうだと言われる中、それを見据えた駆け引きが強くなってきていることが背景にあるとのことでした」(同)
1票の格差是正のため、次期衆院選から小選挙区が「10増10減」されることが決まっており、和歌山は現在の3から2に減ることになっている。
「かねて世耕氏は衆院へのくら替えへの強い思いを明かしてきましたが、それに立ちはだかってきたのが二階俊博元幹事長です。二階氏の引退を機に和歌山は“世耕王国”になることは衆目の一致するところなのですが、二階氏や二階氏に連なる勢力はそう簡単に“城”を明け渡したくないということで、同じ自民党内でしのぎを削ってきました」(同)
選挙区が1つ減ることに二階氏は危機感を抱き、子息に地盤を譲って引退する説も流れていたが、「あともう1期」との声も根強くあったとされる。
二階氏の今後
「折からの自民党の裏金問題の摘発を受け、“あともう1期”のシナリオに黄信号が灯っているようです。二階氏の裏金の額は立件された国会議員を除けば自民党内で最も多い。加えて、領収書の要らない政治活動費約50億円を幹事長在任中5年の間に受け取ったとされています。先ごろ開かれた衆院の政治倫理審査会(政倫審)への出席はしないままで、疑惑への説明責任を果たしたとは言い難く、次期衆院選に出馬できないのではとの見方が浮上しています」(同)
二階氏が子息を後継指名したとしても、世耕氏が参院議員を辞職して衆院選に名乗りをあげる可能性は十分にある。話し合いでまとまらなければ共に出馬し、保守分裂選挙を戦うことになるだろう。
「そういった状況下で、今回の一件がリークされたという流れだと見られています。まあ世耕氏も裏金問題の張本人の一人ではあるのですが、二階氏の一派としては、世耕氏側にさらなる打撃を……ということなのでしょう」(同)
林氏と河村氏の公認争いが重なる
自民党の大物参院議員の衆院へのくら替えをめぐってしばしば語られるのは、林芳正官房長官と河村建夫元官房長官による公認争いのケースだ。和歌山県と同様、林氏の地元・山口県も衆院の小選挙区が1減って3になることが決まっている中で、前回(2021年12月)の総選挙が行われた。
「林氏はこの年の7月に総理総裁を目指すとして山口3区にくら替えを表明。3区には河村氏が現職としており、河村氏も“現職優先”と譲る気はありませんでした。が、菅義偉首相が退陣して岸田政権が生まれ、二階氏も幹事長を交代するなどして風向きが変わり、結局、地元から“林氏を公認に”という声が圧倒的になりました」(同)
保守分裂選挙を回避すべく河村氏は引退。その見返りとして後継者の子息を比例中国ブロックで優遇してもらう算段だったが、その目論見は外れ、子息は比例北関東ブロックに回された挙句、優遇措置も得られず落選。次期衆院選では維新公認で東京6区から出馬予定だ。
「河村氏が早い段階で林氏と衆参でスイッチするなどの判断をしていれば、子息もその後の参院選でバッヂをつけられた可能性は高いはず。和歌山も同様で、いずれ世耕王国になることを前提にすれば、二階氏が選挙区のことでゴネすぎるのは得策ではないとの声が大きいですね」(同)
発端の余興自体、不適切なものに違いないが、それに乗じるようにして主導権争いが展開されているということなのだろう。ダンサーや権力争いに向ける情熱を、本業の政治に向けて欲しいというのはかなわぬ願いなのか。
デイリー新潮編集部
【関連記事】