有罪の柿沢未途被告「政治家は天職」法廷で見せたプライド 裁判長は一蹴「ルール守るのは当然。なぜできない?」(2024年3月14日『東京新聞』)

 
 昨年4月の東京都江東区長選を巡り区議らに現金の供与や申し込みをしたとして公選法違反(買収など)の罪に問われた前法務副大臣で元自民党衆院議員の柿沢未途被告(53)に、東京地裁は14日、「選挙の公正という民主主義の根幹への信頼を揺るがす悪質な犯行」として懲役2年、執行猶予5年(求刑懲役2年)の判決を言い渡した。刑が確定すれば執行猶予期間中は公民権停止となり、全ての選挙に立候補できない。

◆懲役2年、執行猶予5年

柿沢未途被告

柿沢未途被告

 向井香津子裁判長は判決理由で、党内での立場を強めるため多額の資金を投じて前区長の木村弥生被告(58)=同罪で在宅起訴=の選挙戦を有利にしようという「自己中心的な発想」があったと指摘。「積極的に秘書らに指示して組織的に選挙買収を主導した点も強い非難に値し、政治不信を招いた」と批判した。
 向井裁判長は言い渡し後、柿沢被告を見て「ルールを守るという、ごく当たり前のことがなぜできなかったのか。国民の一般常識に立ち返ってよく考えてください」と厳しく諭した。
 判決によると、木村被告を当選させる目的で昨年2月に自民区議ら5人に計100万円を提供し、別の自民区議3人に計60万円の提供を持ちかけた。木村陣営スタッフだった女性(36)に40万円、元区議の板津(いたつ)道也被告(54)に約80万円を提供。4月の選挙期間中、木村被告への投票を呼びかけるインターネット動画広告を約37万円で掲載した。(中山岳)
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◆被告人質問では「差し控える」を連発

 「反省を深めている様子は見受けられない。国政を含む政治不信を招くものとして悪影響も大きい」。向井裁判長は判決を読み上げる中、何度も柿沢被告に鋭い視線を向けていた。
 
 
 かつて「総理になりたい」と公言し、法廷で「政治家は天職」とまで言った柿沢被告。裁判では起訴内容を「認める」ではなく、「争わない」と一貫して言った。被告人質問では「差し控える」と50回ほど繰り返し、説明責任という言葉が空虚にすら感じられた。
 具体的な質問に答えなかった理由を、柿沢被告に近い関係者は「年末に逮捕されて(検察側に)作らされた調書を法廷で読み上げられるのは心外と感じていたのだろう」と推し量る。それならば、自らの言葉で犯行の動機を語ることもできたはずだが、しなかった。
 江東区で昨年末、有権者の女性からこんな話を聞いた。地元行事で、高校3年の女性の娘が柿沢被告と笑顔で話すのを見かけたという。事件に、娘はショックを受けていた。「区を代表する大人がルールを破っていた。娘にルールを守れと言えるだろうか」。柿沢被告の話をする気まずさもあったそうだ。
 江東区で育ち、父親で外相を務めた故弘治氏から地盤を引き継ぎ、衆院選で当選5回を重ねた柿沢被告。「皆さんの期待を裏切った。罪は万死に値する」と法廷で謝罪したものの、4回開かれた公判の傍聴席は空席が目立った。事件と最後まで向き合わなかった姿に冷めた有権者は多かったのだろう。(井上真典)
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◆判決確定なら連座制適用へ

 柿沢被告を有罪とした東京地裁判決が確定すれば、検察側は連座制を適用し、木村被告の当選無効と江東区長選への5年間の立候補禁止を求める行政訴訟を東京高裁に起こす。木村被告の当選無効が確定した場合を想定し、区は区長報酬約1200万円の全額返還を求める検討も始めた。
 公選法は、陣営内で選挙運動計画を立案する「組織的選挙運動管理者」に執行猶予を含む禁錮刑以上の刑が確定すると、当選者に連座制を適用すると定める。
 14日の判決は、柿沢被告が木村陣営で「選挙戦略・戦術を企画・指南するなどした」と指摘。検察側は柿沢被告が組織的選挙運動管理者に当たるとみている。

木村弥生被告の区長報酬は

 木村被告に支払った区長報酬を巡り、区は2月の区議会予算審査特別委員会で、買収罪が確定して当選無効となった元大阪市議に議員報酬全額の返還を命じた昨年12月の最高裁判決を踏まえ「法律家と相談し、慎重に検討する」との考えを示した。有料広告を巡り木村被告が議会で虚偽答弁をした疑いがあるとして、区は退職金約462万円の支払いを差し止めてもいる。
 木村被告は公選法違反の罪で在宅起訴され、18日に地裁で初公判が開かれる。(中山岳、井上真典)