災害時の断水 水道管の耐震化なぜ進まない(2024年3月14日『読売新聞』-「社説」)

 大きな地震が起きるたびに、老朽化した水道管が損傷し、断水が繰り返されている。各地で遅れが目立つ水道管の耐震化を急がねばならない。
 能登半島地震で大きな被害が出た石川県の奥能登地方では、今も断水が続いている。住民は食事や衛生面で不便を強いられ、病院などの運営にも支障が出ている。

 石川県の水道管の耐震化率は36%で、全国平均の41%よりも低い。街の中心部だけでなく、山あいに点在する集落につながる水道管も至る所で破損し、復旧に時間がかかる要因となっている。

 道路の寸断で、復旧にあたる作業員も現場到着に困難を極めた。今回の断水は、ひとたび水道網が破壊されたら、容易には立て直せないことを浮き彫りにした。

 日本の水道網は、高度経済成長期に集中的に整備され、現在では耐用年数の40年を過ぎた水道管も多い。国は、地震が起きても壊れにくく、つなぎ目が外れにくい水道管への更新を推奨しているが、切り替えが進んでいない。

 水道事業は主に市町村が担っている。人口減や節水技術の向上で料金収入が減る一方、住民の負担になる大幅な値上げは難しく、各地で苦境にある。水道管の更新費用も捻出できない状況だ。

 道路や 橋梁きょうりょう なども老朽化が深刻だが、水の確保は人の命にかかわる。地震は今後も、いつどこで起きるかわからない。

 水の安定供給を維持するためには、各自治体がいかに水道事業の効率化を図り、財政基盤を強化できるかがカギを握る。

 香川県は2018年、県内ほぼ全域の水道事業を統合した。業務の一元化で経費を削減し、設備の更新費用などに充てている。組織の規模を生かし、災害時には早急な人員派遣も可能になる。

 宮城県は水道事業の運営を民間に委託している。各地域で実情に見合う方法を検討してほしい。

 限られた予算を有効に活用するためには、どのエリアから水道管の耐震化を進めていくのかという判断も重要になる。

 大阪府堺市は、災害時に避難所となる学校や、被災者を受け入れる病院に水を送る水道管を優先的に耐震化している。福島県会津若松市は、AI(人工知能)で水道管の劣化度を調査し、その結果を基に更新の順番を決めている。

 水道行政は4月、厚生労働省から、道路を担当する国土交通省に移管される。道路工事の際、水道管の耐震化も併せて行うなど、一体的な整備につなげるべきだ。