下水道の耐震化 ひとごとでない危うさ(2024年2月29日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 能登半島地震からあすで2カ月。あまり意識してこなかった足元の危うさが浮き彫りになってきている。

 被害が大きかった石川県の輪島市など6市町で、汚水を流す下水管の52%が機能を失った。今も3割余が使えないままという。

 上水道の断水による水不足が注目されてきたが、使った水が下水道に流せない状況だ。上水道が復旧したのに節水を呼びかけざるを得ない地域もある。

 強い揺れと地盤の液状化で、下水管が破損したり、継ぎ手部分が外れたりした。あちこちの道路でマンホールが高々と浮き上がって交通に支障を来し、ポンプ施設や処理場も被災した。

 ほかの公共インフラや住宅と同様、耐震化が必要なのは分かっていた。継ぎ手部分に柔軟性を持たせる工法やマンホールが浮き上がらない液状化対策など、技術的な知見は蓄積されている。

 ところが全国の主な下水管で耐震化を終えたのは56%にとどまる。石川県は69%と平均を上回るが過疎が進む能登半島北部では50%ほどという。同じ50%の長野県もひとごとではない。

 立ちはだかる壁が、人口減少と自治体の財政難である。

 下水道事業は上水道とともに自治体が担う。住民らの使用料を基本に財源を賄う独立採算の原則をとっているが、人口減少で収入の先細りが見込まれている。

 一方で、維持管理や耐震化だけでなく老朽化した設備の更新も必要になっており、国の補助はあっても相応の費用がかかる。

 料金の値上げは難しく、対策に二の足を踏む自治体は多い。能登半島や信州のように小規模で、点在する集落をつなぐ管路が長い市町村はなおさらだろう。

 国は市町村の広域連携による効率化で維持経費を抑え、耐震化を促そうとしている。県内でも協議が続いているが、料金体系が事業体によって異なるなど、合意は簡単ではない。

 財政難に伴う経営合理化で上下水道にかかわる職員も減っている。わずか数人という事業体では技術継承が難しく、災害時対応にも支障が出かねない。

 土木学会は今月、家庭や集落で完結する分散型・自給自足型の設備の検討を提言した。東日本大震災を機に、負担が少ない合併処理浄化槽に一部切り替えた宮城県石巻市は一例だろう。

 限られた財源をどこに振り向けていくか。住民も公共投資の優先度を見極めなければならない。