土をかぶった輪島塗「捨てないで」と説得したのはどうして? 見つけた瞬間、心を奪われた山田修さんの復興支援(2024年5月11日『東京新聞』)

 
 能登半島地震の被災地でボランティアをしている新潟県糸魚川市のヒスイ加工販売「ぬなかわヒスイ工房」の山田修さん(60)が、被災した家屋から見つかった輪島塗の漆器を持ち主の代わりに販売し、売り上げを持ち主に全額寄付している。それぞれの家庭にある輪島塗に込められた思いをつなぎ、被災者の生活再建を後押しする。(大野沙羅)

◆明治~昭和初期の漆器 汚れを洗い流すと…

全壊した蔵から掘り出した輪島塗を見つめる山田修さん=石川県七尾市能登島八ケ崎町で

全壊した蔵から掘り出した輪島塗を見つめる山田修さん=石川県七尾市能登島八ケ崎町で

 山田さんは2月から、被災住宅の片付けや給水支援といったボランティア活動を始めた。その一環で訪れた石川県七尾市能登島八ケ崎町の小林和宗さん(73)方で、全壊した住宅や蔵のがれきから輪島塗を発見。明治中期から昭和初期に作られた冠婚葬祭用に使われる木箱入りのわん類や朱盆などで、屋号も記されていた。割れた物も多いが、ほこりや砂を洗い流すと、美しさがよみがえった輪島塗もあった。
 脱サラ後にUターンしてヒスイで勾玉(まがたま)を作る職人になり、2013年に工房を開いた山田さん。がれきの下敷きになった輪島塗を見た瞬間に「どれだけ手間暇をかけて作られているのかを思うと、ものづくりの職人として胸が締め付けられた」という。

◆ネットで新たな持ち主探し…「能登の人々の物語を共有して」被災した家屋から見つかった輪島塗を紹介するオンラインショップの画面

被災した家屋から見つかった輪島塗を紹介するオンラインショップの画面

 自宅を失った小林さん家族は当初、輪島塗を廃棄するつもりだったが「生活費の足しになる」と説得されて漆器を預けた。山田さんは、法的な問題がないよう警察や税務署に相談し、3月ごろから1カ月かけて代行販売の仕組みを整備。価格は漆器業者のアドバイスを得て設定した。商品には持ち主の紹介文を添えて、4月からオンラインショップで通信販売を始めた。
 サイトには6000件以上のアクセスがあり、注文が殺到して処理能力を超えたため、販売を休止。現在は、ギャラリーなどで展示販売をしてくれる協力者を増やすため、サイトに商品情報を掲載している。山田さんは「輪島塗の漆器を購入していただくことは、能登の人々の物語を共有すること。日常使いして被災家族と能登に思いをはせてほしい」と話している。