福島原発の廃炉 高難度の作業をどう進めるか(2024年3月13日『読売新聞』-「社説」)

 東京電力福島第一原子力発電所の事故から13年が過ぎた。廃炉作業は思うように進んでいない。政府と東電は、事態の打開に向け、一つ一つ課題を克服するしかない。

 福島第一原発東日本大震災津波で電源が失われ、1~3号機で炉心溶融が起きた。今も炉心には、溶融した核燃料デブリが手つかずのまま残っている。

 廃炉の完了は2041~51年を目標としている。ただ、放射線量が高く人が近づけないため、内部の詳細が把握できず、デブリの取り出し方法も定まっていない。

 国の「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」はこのほど、デブリの取り出しに関する報告書をまとめた。東電は今後、この方針を基に具体的な工法の検討に入る。

 デブリの取り出しは廃炉作業の「本丸」である。今回の報告書は、これから始まる難工事への第一歩だと言えるだろう。

 現在、有力視されているのは、空気中に露出しているデブリをロボットアームなどで取り除くか、それが難しい場合はセメント系の材料で固めて除去する工法だ。

 水には放射線を 遮蔽しゃへい する性質があるため、原子炉全体を水没させ、作業員が現場に近づいて作業を行う工法も検討された。しかし、炉全体を冠水させるのが難しく、今の時点では適切な方法とは言い難いと判断された。

 現時点で可能と思われる方法に全力で取り組むほかない。今後、技術力を高め、新たな手法を開発する努力も続けてもらいたい。

 事故原発廃炉は、1979年に炉心溶融を起こした米スリーマイル島(TMI)原発の例がある。溶融した燃料は、すでに取り出しがほぼ完了しており、廃炉のめどは立っている。

 一方、福島第一原発は、デブリの量がTMI原発の7倍近い880トンに上るとされる。まだ1グラムのデブリも取り出せていない状況で、作業の難度は格段に高い。

 福島第一原発でのデブリの試験取り出しは今年10月頃までに始まるという。まずはこれを成功させることが大切だ。

 原発の敷地内ではこれまで、汚染水を浄化処理した処理水をタンクに入れて保管してきた。その処理水の海洋放出が始まり、徐々に作業が進展している面もある。

 本格的なデブリの取り出しに着手すれば、さらに大きな障害に突き当たるのは必至だ。今後も計画通りに進まないこともあるだろう。当初の計画に固執せず、柔軟に対応していく姿勢が必要だ。