福島原発事故の教訓 いま一度、立ち止まるべきだ(2024年3月12日『中国新聞』-「社説」)

 13年前の過酷な東京電力福島第1原発事故の教訓を、改めて直視すべき時だろう。

 炉心溶融メルトダウン)した原発放射性物質から逃れるため、身一つで避難した住民が古里に戻れていない。7市町村に帰還困難区域が残り、居住人口が事故前の1割に満たない町もある。

 大津波があり得るとの科学的知見を東京電力が軽んじ、電源喪失を招いた結果だ。国策として進める原発で、「安全神話」がいかに危ういかが分かった。猛省し、再稼働に当たっては原子力規制委員会による新規制基準審査を徹底し、放射能漏れを前提に広範囲の避難計画の作成を義務づけると決めたはずだ。

 再認識すべきなのは、石川県の能登半島地震があったからだ。原発の安全性と災害想定に疑問符を突き付けた。

 とりわけ避難計画が機能しないとの懸念は強まる。能登にある北陸電力志賀原発は幸いにも停止中で重大事故に至らなかったが、家屋倒壊や道路の寸断が相次いだ。住民に屋内退避や広域避難を求めても非現実的だと露呈した。放射線量を測るモニタリングポストが通信の不具合で一部使えず、これでは避難の方向や時期を判断できないだろう。

 岸田文雄政権は原発を積極的に活用すると政策転換をした。エネルギー基本計画で原発依存を可能な限り低減すると定めているにもかかわらず、脱炭素やエネルギー確保を理由に押し進める。いま一度、立ち止まるべきだ。

 この13年、原発事故は対処に膨大な時間やコストがかかると思い知らされてきた。

 廃炉作業では、溶け落ちた核燃料(デブリ)を取り出すめどすら立たない。敷地内にたまった処理水は昨年8月に海洋放出を始めたが、放射性物質を完全に取り除けるわけではない。長期にわたって環境監視が要る状態が続く。

 そもそも高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場がないまま稼働を続けるという、次世代に対して無責任な問題も残したままだ。

 これらに能登で得られる知見も加味した上で、政権は回帰の是非を判断すべきだ。

 志賀原発は再稼働に向け、規制委による審査の最中だ。東日本大震災後の断層調査をきっかけに、敷地内や周辺にある断層の評価を軸に9年以上続く。震源地となった珠洲市にはかつて原発の建設計画があった。住民の反対運動で中止したが、もし建てていたら惨事は免れなかったろう。

 今回、半島北側の活断層が連動して大地震になったと、専門家はみている。揺れや津波想定そのものの見直しを含めて、根本的な仕切り直しは必至だ。避難計画にしても現行のままなら、住民を犠牲にしても構わないと言っているようなものではないか。

 日本海沿岸は原発が集中して立地する一方、海域活断層に未解明な部分が多い。8月には中国電力が島根原発2号機を再稼働させる予定だ。現状のままの原発活用で、国民の安全を守れるのか。折しも次期エネルギー基本計画の改定が近づく。国民に開かれた議論にしなければならない。