主婦の勘(2024年3月12日『高知新聞』-「小社会」)

 主婦の勘が鈍ったという投稿が交流サイト(SNS)で話題になったのは1年半ほど前だろうか。日常的に買い物をしていると、会計前に何となく、支払額の見当は付く。それがこの時期、よく外れた人も多かったのでは。生活に根付いた表現に共感が広がった。

 勘働きや給料の増加分を上回る物価高が続く。主婦の勘も狂わされっぱなしに違いない。生活防衛の意識は強まり、1月の家庭の消費支出は前年同月より6・3%も減った。そろそろ、我慢の暮らしから反転攻勢といきたいところ。

 その行方を占う春闘が本番を迎えた。政府が取るデフレ脱却の音頭に合わせ、労働組合側は昨年の水準を上回る強気の要求。経営者側も賃上げ拡大に理解を示していると伝わる。

 しかし、こんな実態が浮かび上がると、本心を疑いたくもなる。日産自動車の「下請けいじめ」。部品メーカーなど取引先に、この2年間で計30億円もの値引きを強要していた。

 下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けたが、違法性の認識すらなかったというのは長年の体質ゆえか。度を超した値下げ圧力は下請けの体力をそぎ、巡り巡って顧客の消費意欲を失わせかねないというのに。

 世は「失われた30年」からインフレへ移りつつあるが、デフレ思考の執拗(しつよう)さに驚かされる。今日から連合が設定した集中回答日。主婦の勘のずれに神経質にならずとも、買い物を楽しめるようになるかどうか。