福島事故から13年 脱原発への道筋再構築を(2024年3月12日『北海道新聞』-「社説」)

 東京電力福島第1原子力発電所の事故から13年となった。
 溶け落ちた核燃料(デブリ)の試験採取が今年1月に3回目の延期となるなど、廃炉への道筋は一層不透明になっている。
 事故に対する社会の関心が薄れ、原発のリスクが忘れられがちになっているのも気がかりだ。
 岸田文雄政権は十分な議論もなく原発回帰を進めている。
 そうした中、元日に能登半島地震が発生し、震源に近い北陸電力志賀原発(石川)では運転停止中の1、2号機の変圧器2台から油が漏出して使用不能となるなど、多くのトラブルが生じた。
 想定を超える自然災害に対する原発の危うさが改めて浮き彫りになった。避難を含めた災害対策の抜本的な見直しが不可欠だ。
 多くの国民が不安を抱いたままなし崩しの原発再稼働が進むことは許されない。福島事故を経験して目指したはずの脱原発への道筋を再び築き直す機会としたい。
 ■再稼働に懸念拭えず
 福島第1原発ではこの1年間に処理水の放出が進む一方、ミスやトラブルが頻発している。
 先月には放射性物質を含む約1.5トンの水が建屋から漏れた。閉めておくべき16カ所の弁のうち10カ所が人為ミスで開いていた。昨年秋には作業員が放射性物質を含む廃液を浴びる事故もあった。
 現場の油断や安全管理の不備がなかったか、東電は徹底的に検証し対処しなくてはならない。
 廃炉への展望が開けない中、想定される事故処理費用は膨らんでいる。昨年12月には1兆9千億円増えて総額23兆4千億円になった。上振れは3回目だ。
 賠償を含む費用を負担する東電に国が資金を貸し付けているが、弁済は業績不振で順調ではない。
 東電の再建は柏崎刈羽原発(新潟)の再稼働に依存している。だが東電側の不祥事が相次ぎ、再稼働のめどは立たないままだ。
 東電は2024年度にも経営再建計画を更新する。再稼働頼みの現行の計画は根本から見直す必要がある。
 ミスやトラブルの絶えない東電が原発を安全に運営できるのか、疑念は拭えない。
 ■指針の不全あらわに
 原発事故で放射性物質が周辺に漏れた際、福祉施設の高齢者や入院患者らすぐに逃げられない人たちをどう支えるかが問われる。
 能登地震では志賀原発30キロ圏内にあり、事故時に一時避難する21の放射線防護施設のうち6施設に損傷や異常が起きた。国による対策の甘さが露呈したと言えよう。
 北海道電力泊原発(後志管内泊村)でも、泊村役場など周辺の公共施設や学校、福祉施設などが防護施設に指定されている。
 地震津波原発事故が重なる複合災害でも機能を維持できるよう、耐震性などを再度点検し、強化していくことが肝要だ。
 福島事故後に原子力規制委員会が策定した災害対策指針は、原発から5キロ圏内は事故の兆候があった時点で即時避難し、30キロ圏内は自宅などに屋内退避して放射線量が上昇すれば避難する想定だ。
 能登では道路が寸断され、事故が発生しても住民の避難は難しかった。30キロ圏内でも多くの家屋が倒壊し、屋内退避も困難だった。
 指針は自治体の避難計画の前提となるものだが、まさに「絵に描いた餅」ではないか。それなのに規制委は大幅に見直す考えはないという。無責任と言うほかない。
 審査対象外の避難計画を含め、規制委は原発立地地域の安全確保により積極的に関与すべきだ。
 ■再エネ普及を阻むな
 昨年は太陽光と風力による発電を一時的に止める出力制御が全国的に増えた。火力発電を抑制したり、域外への送電を行ったりしても需要を上回ったためだ。
 現行の優先給電ルールでは原子力より、太陽光と風力が先に出力制御の対象になる。このため原発再稼働が進むほど、太陽光と風力の抑制につながりやすい。
 再エネを頻繁に止めるようになれば普及を阻みかねない。送電網や蓄電池の拡充を急ぎたい。
 脱炭素電源のうち、出力制御のリスクを太陽光と風力が負い、原発は負っていない点も問題だ。
 当面は原発を動かさざるを得ないのなら、リスクや負担を分け合うのがあるべき姿だろう。
 政府は再エネ発電の抑制に伴うコストについて、原発を運転する電力会社にも負わせる仕組みなどを検討することが求められる。
 電力の安定供給と脱炭素の両立は重要だが、安全面への懸念に加えて経済的優位性も乏しくなった原発固執すれば、環境や国民の生活を脅かすおそれがある。
 脱炭素は原発回帰ではなく、再生可能エネルギーの拡大で進めるべきであると、岸田政権は認識しなくてはならない。