原発の燃料装填 高まる不安は見ぬふりか(2024年3月31日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 東京電力が、再稼働を目指す柏崎刈羽原発7号機(新潟県)で来月から核燃料の装填(そうてん)を始めると発表した。

 地元が同意する前に準備だけは着々と進めておこう、との考えのようだ。

 同意を得る見通しは立っていない。それなのに、ずいぶんと前のめりの姿勢である。

 装填作業は半月ほどかかる。その後、核分裂を止める制御棒の検査などを経て、原子炉が起動できる状態になる。同意を得ず核燃料を装填するのは異例だ。福島第1原発事故後に再稼働した全国の6原発12基は、いずれも地元が同意した後の装填だった。

 1月の能登半島地震を機に、原発を抱える地域の住民の間で安全性への懸念が高まっている。

 能登半島にある志賀原発(石川県)から放射性物質の漏えいはなかったとされるが、外部電源の一部を喪失するなど、地震に伴う深刻なトラブルが発生した。

 何より、半島の各地で道路網が寸断され、避難計画で想定した通りには逃げられない実態が浮き彫りになった。柏崎刈羽の周辺地域の住民からも「人ごととは思えない」との声が聞かれる。

 能登で起きたように活断層が広範囲に連動する地震の影響を、原発施設が十分には考慮できていないとも指摘されている。

 数々の不安や疑問を素通りするような準備は認められない。装填は取りやめるべきだ。

 柏崎刈羽原子力規制委員会の再稼働審査に合格したのは2017年。その後、テロ対策の不備が発覚して規制委が事実上の運転禁止を命令。追加検査を経て、昨年12月に解除されていた。

 残る手続きが地元同意だ。東電と安全協定を結んだ立地自治体が「地元」とされ、具体的には新潟県柏崎市刈羽村新潟県の花角英世知事は慎重な姿勢で、今後の対応が注目される。

 「原発の最大限活用」を掲げる岸田文雄政権は、ここにきて圧力を強めている。斎藤健経済産業相が今月18日、電話で再稼働への同意を知事に要請。21日には、資源エネルギー庁の村瀬佳史長官が県庁を訪れて理解を求めた。

 再稼働の準備に突き進む東電の背後には、強気の対応に乗り出した政権の姿勢があるのだろう。

 知事は、同意判断について「県民がどう受け止めるのか、丁寧に見極めたい」としている。

 避難計画の実効性を確保できるのか。従来の地震想定でよいのか。国と県、そして東電は、懸念の数々を直視する必要がある。