今年に入ってからの永田町は、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の話題で覆い尽くされたような状況だ。国会で予算委員会が開かれれば野党はもちろん、自民党公明党からもこの問題に対する岸田文雄首相への見解をただす質問が続出する。首相の答えが十分でないこともあり、繰り返しこの問題が質問される。野党が言う通りの「裏金国会」となっている。

一方で今年は元日に能登半島地震が起きた。1月17日には、1995年に発生した阪神・淡路大震災から29年の節目を迎えた。そして明日3月11日は、2011年の東日本大震災から13年。日本が地震大国であることをあらためて実感するが、日本能登半島地震発生後の政府対応をめぐり批判も出る中で、地震発生が多い日本での対策をどうアップデートさせていくかという議論は、国会ではあまり見えてこない。

裏金問題をめぐる自民党議員の衆院政治倫理審査会(政倫審)への出席方法問題で、自民党がドタバタ混乱していた先月27日の夕方、国会内で1つの勉強会が開かれた。講師は自民党石破茂元幹事長(67)。自身を中心とするグループ「水月会」の政策勉強会を久しぶりに再開したのだ。

自民党総裁選に過去4度挑戦し、いずれも勝てず、「終わった」と言う人もいるが、各社世論調査の「次の首相候補」調査では長い間トップで、特に裏金事件を受けて岸田文雄首相の支持率がどんどん低下する中で、その数字は増している。「自民党と国民の評価の差がここまで大きい人も珍しい」(自民党関係者)という声も聞くが、今秋の岸田首相の総裁選再選を懐疑的に見る向きもある中、この勉強会が石破氏の「5度目の挑戦」に向けた足がかりになるのではということで、多くのメディアが集まった。出席した議員は最終的に15人だった。

この勉強会で石破氏が何度も語ったのは、まさに地震対応のアップデートの必要性。「防災省」の設置の必要性を強く説いた。能登半島地震の発災直後は多くの人が体育館などに避難したが、いわゆる「雑魚寝」の状態だとし「東日本大震災熊本地震も同様だった。101年前に起きた関東大震災当時から変わらない」「戦前と比べて避難所も変わっていない」などと指摘した。個人的には衝撃の内容ばかりだった。

石破氏が挙げた、日本と同じように地震が多いイタリアのケースでは、TKB(トイレ、キッチンカー、ベッド)の常時備蓄が国で定められ、発災から遅くても48時間以内に被災地へ向けて用意されるという。特に食事に関しては、登録されたシェフがキッチンカーで調理したフルコースやワインを振る舞うこと、シェフはボランティアではなく、政府が実費や休業分を支払う仕組みとも指摘。「失意のどん底にある被災者を励ますのは温かい食事とワイン。日本では『ぜいたく』となるが、そもそも思想が違う」と述べ、被災者の権利として守られているとも訴えた。

災害時、こうした防災対策や国民の保護に当たる専門の組織が必要だとして「デジタル庁も子ども家庭庁もできるのに、なぜできないのか」と述べ「やるぞ!と時の総理が言うことだ 誰が総理であっても…」という言葉も口にしていた。

1時間半に及んだ勉強会の冒頭や、終了後の取材にも「何ら、よこしまな思いがあるわけではない」と、総裁選がらみの臆測をけん制しつつ、この日の会には、かつてなら自身の会合に参加することはなかった安倍派(解散決定)などの議員も参加したことに触れ「『ラーメン議連』をつくった時も『参加するな』みたいなお触れが出た派閥もあったらしい。(今回の顔ぶれは)今までになかった光景。かつては、旧安倍派の人は絶対に来なかった」と、手応えのようなものも口にしていた。

総裁選対応について、はっきりした意欲はまだ「封印」している感の石破氏だが、今の政権で考えが及んでいない、足りていないような部分をテーマに踏み込んで議論したことには、何らかの思いもあったのではないだろうか。「ああ知らなかった、と気づきがある勉強会は、あったほうがいい」とも話していたが、裏金問題が主流の今の国会で、地震対応での将来に向けた前向きな議論は進んでいないのが現実。一石を投じようとした側面もあったようにも感じる。

「本来の意味での政策勉強会をやっていきたい。(参加者)数というより、継続が大事」。こうも話した石破氏の発信には、季節が進むにつれてさらに、関心が高まっていくように感じる。【中山知子】