自民・浜田靖一国対委員長「自民全体があきれられている」…「派閥」の感覚抜けていない(2024年3月9日『産経新聞』)

自民党の派閥パーティー収入不記載事件などを語る浜田靖一国対委員長(酒巻俊介撮影)

自民党の派閥パーティー収入不記載事件にけじめがつかないのは、政治家の道義的な責任が宙に浮いているからではないか。衆院では安倍派(清和政策研究会)の幹部らが政治倫理審査会(政倫審)にようやく出席したが、自民の処分の行方などは不透明だ。政倫審の開催に向け、苦闘した自民の浜田靖一委員長は「自民全体があきれられている」と危機感を募らせる。

苦悶した政倫審…若手は限界

浜田さんと待ち合わせたのは、東京・神楽坂の居酒屋「神楽坂船形」。浜田さんが地盤とする千葉県館山市の船形漁港から毎日鮮魚を自社便で運び、活きのいい刺し身などをメニューに並べる。漁港内の直売所から仕入れた房総産の野菜にもこだわっており、店に入れば現地を小旅行したような気分が味わえる。

店は、南房総の地酒も売りにしているが、浜田さんはお酒が飲めない下戸だ。政倫審の開催自体や公開の有無などを巡り、最後まで苦労した浜田さんが、ジンジャエールをお供に語り出した。

「令和6年度予算案には能登半島地震の復旧費も入っている。年度内に確実に成立させる必要があるので、事件を巡る説明は予算案の審議と切り離して開催できる政倫審にすみ分けた。今回の予算案の重要性は、野党もわかっていたはずだ」

「そもそも政倫審は、政治家が『説明させてください』と申し出て開くのが原則だ。追及を受けるところでない。予算委員会の証人喚問と違い、質問にすべて答えなくてもいい。追及型の予算委と同じように考えてもらっては困る。とはいえ…」

浜田さんが複雑な表情をみせる。

「安倍派の中堅や若い議員は、限界に近づきつつあったと思うよ。彼らの声を直接聞く機会があったが、それぞれの選挙区で厳しい思いを強いられ、本当にかわいそうだ。今回は、安倍派の幹部が出席を決断してくれてよかった」

今回の政倫審では、東京地検特捜部から集中的な捜査を受けた安倍派幹部の出席がとりわけ注目を集めた。岸田文雄首相が全面公開で出席すると表明した後、安倍派の幹部4人らが同じ形式で続くことになった。

「安倍派の幹部からみれば、自身は捜査の結果不起訴になり、政治資金収支報告書も修正し、一区切りを付けた。閣僚や党の要職も退いた。『なのに、なぜ出席が』という思いもあっただろう。でも自民の外側からみれば、それは身内にしか通用しない勝手な考えだと思われてしまう」

浜田さんが、ジンジャエールのグラスをみつめながら苦しげな表情をみせる。 「自民には、常に派閥の論理の上に成り立っている流れがあった。自民全体より派閥が大事というね。派閥を通じてカネやポストの配分をするから、恩恵を受ける人はのんびりできていた。その感覚が抜けきっていない向きもあったんじゃないかな。『党全体に深刻な影響を与えている』という危機感はあるか。恐ろしいのは‥」

ここでおかみさんが、こよいの1品目として房総で今朝獲ったばかりの生わかめを使ったしゃぶしゃぶを持ってきた。さっと熱めのお湯にくぐらせると、薄茶色のわかめが一気にヒスイ色にかわる。ポン酢にくぐらしていただく。シャキシャキした食感と新鮮な香りが素晴らしい。「今の時期は旬なんだよ…ちょっと落ち着いたね」。浜田さんに笑顔が戻る。

有権者に諦めムード

自民党浜田靖一国対委員長は下戸。こよいのお供はジンジャエールだ=東京都新宿区神楽坂の「神楽坂船形」(酒巻俊介撮影)

さて、「恐ろしい」ものとは。

有権者があきれているということだよ。ただ、昔のように『だったら自民党政権をひっくり返せ』という怒りのような雰囲気は少ない。『いくら言っても、政治は変わらないよね』と放置されている」

同席した奥原慎平記者が、「自民の若手は『派閥の幹部が誰も責任を取らない』と強い不満をためている」と合いの手を入れる。

「自民なんかいくらでも批判してもいいんだよ。『これを直すために当選させてください』と訴えて、選挙で勝ち抜いてくればいい。自分の話をどれだけできるかが試される」

一方、今回の政倫審を巡っては、予算案を人質に取った野党の対応も褒められたものではない。

憲法の規定に基づき、予算案の年度内成立を確定させるためには、2日までに衆院を通過させる必要があった。野党第一党の立民はこれを逆手に取り、政倫審に一定レベルの出席者が顔をそろえ、完全公開を決めなければ予算案の採決に応じないというかたくなな姿勢をとった。

立民は首相や安倍派幹部らが完全公開の形で政倫審への出席を決めた後も、衆院予算委員長の解任決議案などを連発した。衆院本会議では、山井和則衆院議員が議事を妨害する狙いで2時間54分も「フィリバスター」の大演説を行うなど、抵抗ありきの旧来スタイルに先祖返りした印象も受けた。

今回、年度内成立の期限となった2日は土曜日だった。通常、土日は議員が地元活動を行うため審議を控えるのが慣例だが、与党は土曜日をつぶしても2日に採決する道を選んだ。

「土曜日まで使わない日程にしたいと思っていたが、やらざるを得なかったのは、それだけ年度内成立を重視していたということだ。国会の会期中だから、原則は土日でも審議できる。そもそも、今国会の会期末となる6月23日は日曜日。普段なら21日の金曜日が事実上の閉会日になるかもしれないが、22日も23日もやろうと思えば審議できる。今年は3連休が多く、審議で使える日が少ないから、毎日カレンダーを見ながら日程を考えているよ。一体、会期末はどうなっているんだろうね」

野党も労組から「団体献金

今後の国会は、政治資金規正法改正などを巡る議論が大きな争点になる。立民がまとめた政治改革案では、企業や団体が献金やパーティー券の購入を全面禁止すると踏み込んでいる。

「野党も、労働組合出身の議員が親元から受け取っているのは団体献金というケースが多いんじゃないか。政治活動には、どうしても一定のお金がかかる。この議論を突き詰めすぎると、お金持ちしか政治に参加できないという本末転倒な結末にもなりかねない。仮に全部個人献金に切り替えるなら、企業の献金は個人名に分散され、かえって分かりづらくなる可能性もある。慎重な議論が必要だ」(水内茂幸)

神楽坂船形 東京都新宿区神楽坂5-1-1神楽坂コアビル2F

浜田さんの「夜の政論」第2回は3月10日正午にアップします。

自民に安倍派元幹部の処分求める声